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第175話 成人の儀 其の四十一★       ──喪失感──

「──んんっ……!」  臀の双丘に擦り付けられる、とても熱くて硬い物に香彩(かさい)は思わず声を上げた。  紫雨(むらさめ)のその体格に見合った凶器のような熱楔が、香彩の後蕾から溢れる蜜を絡ませて、ぬちゃりぬちゃりと卑猥な水音を立てる。 「あ……」   奥の窄まりに熱が押し当てられる感覚に、香彩は竜紅人(りゅこうと)の肉茎から僅かに口を離し、喘いだ。  ここだと定められたのだと悟った体は、本人の意思とは関係なく肌を震わせ、その深い疼きは敏感になった隘路をしとどに濡らす。  香彩の蜜かそれとも、紫雨自身の先走りか。既に濡れた先端で後蕾の襞を軽く突かれ、腹の奥が熱くなった。  ああ、早く奥まで欲しい。  そう思いながらも、心の片隅で失くしてしまうものを思い、心が泣いて震える。 (……いま、さら……なのに……)  彼と接吻(くちづけ)をし、胸の漿果はふっくりと色付くまで吸われ、若茎に触れられて、胎内(なか)は指でたっぷりと暴かれた後だ。今更だと思うのに、この一線は心の在り方が全く違うのだと思い知らされる。  寄りにも寄って竜紅人の前だ。 「……香彩」 「かさい……」   それなのに、色欲に掠れた自分を求める低い声を聞くだけで、香彩の腰は挿入を急かすように無意識に動いてしまう。  何て浅ましい身体なのだろう。  心とあまりにも違う(いびつ)さに、心ごと墜ちそうになる。それを何とか(とど)めているのが、ふたりの雄の熱さだと悟って、その皮肉さに香彩は心の奥底で自身を嗤った。  今でも縋るように竜紅人の剛直を握り、唇を寄せている。そして紫雨の熱楔に貫かれるのを、今か今かと待っているのだ。 「──いいだろう……くれてやる、かさい」  紫雨の声が、凶器のようだと香彩は思った。その言葉は香彩の尾骶に、つんとした疼くような痛みを与え、まだ何もされていないのに、甘い疼きが背筋を駆け上がる。  きゅっと香彩は竜紅人の雄を握り込んだ。息を詰める竜紅人の声が上から降ってくる。離す、という選択肢はなかった。その熱もまた自分にとって必要なものだったから。 (……もしも……)  もしもこのふたつを同時に咥えたら、自分はどうなってしまうんだろう。  それは今まで感じたことのない『恐れ』と『期待』だった。  だがそんなことを思う自分自身の浅ましさに、香彩は戦慄く。 (……そんなの……っ)  恐いと思う。だが同時に求められたいと願ってしまう。 「──あ……」  すでに熟れた後蕾の赤い粘膜を軽く擦り上げた後、紫雨の猛り勃った熱楔のような剛直が、根元まで一気に埋め込まれた。

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