177 / 409

第177話 成人の儀 其の四十三★       ──希う思念──

 竜紅人(りゅこうと)は一体何をするつもりなのか。  悦楽に侵される思考の片隅で、答えなどたったひとつしかないのだと、分かっていた。  それでも香彩(かさい)は、後蕾から来る禁断の甘い快楽に力が抜けそうになりながらも、震える自らの両腕を支えに、縋り付いていた紫雨(むらさめ)の胸から身を起こす。そして少し身体を捻らせて、情欲に濡れながらも戸惑いを隠せない瞳で、竜紅人を見た。  香彩のすぐ側で膝を木床に突き、同じ視線の高さになった竜紅人の顔が近い。  だからだろうか。  香彩は気付いてしまった。  同じく色欲を滲ませた伽羅色の中に、別の感情を孕ませていることに。 (……ああ)  それは何度か見たことがある、真竜の本能としての嗜虐性だった。  一度目は蒼竜屋敷の神桜の木の下で。  二度目は大司徒(だいしと)政務室の少憩室で、(ねい)の目の前で神気を解放させたあの時。  竜紅人の真竜としての嗜虐性の引き金になったのは、まさに嫉妬という感情だった。  今も同じなのだろうと香彩は思う。  色欲と嫉妬の孕む、ぎらついた目をしながら、それでも香彩の罪悪感を薄める為に、紫雨と共にこの身を抱こうというのか。 「あぁっ……!」   何も考えるなと言わんばかりに、竜紅人の指が後蕾の上部を引っ掛けるようにして引き伸ばす。 「や……だ……! 無理……む、り……! もう……挿入(はい)らな……!」   強すぎる卑猥な刺激に、香彩は顔を愉悦に歪ませた。  香彩は嫌々をするように首を横に振る。  そんな香彩の様子に、竜紅人はくすりと笑うのだ。 「──無理? 蒼竜は、これよりもう少しばかり大きかったなぁ、かさい」 「……!」   だから挿入(はい)るだろうと言わんばかりの竜紅人の言い方に、香彩の身体はびくりと震えた。 「それに……かさい。今の俺は思念体だ。そしてお前は俺の御手付(みてつ)きだ。お前の心内で強く『希う』思念を、俺が分からないとでも?」 「──……っ!」  香彩の顔に、さっと朱が帯びる。  途端に、ぎゅう、と紫雨の熱楔と竜紅人の指を締める胎内(なか)が、答えを物語っていた。  ほぉう? と感嘆の息をつく紫雨の声が、恥ずかしくて堪らない。  確かに自分は思ったのだ。  ふたりを受け入れたら自分は、どうなってしまうのだろうかと。  両方、欲しいのだと。 「……違っ……!」  否定の言葉を発しても無駄だと分かっているのに、香彩は首を横に振る。  思念体が思念を読み違えることはない。ましてや己の御手付(みてつ)きの思念だ。  ぎらついた竜紅人の伽羅色に、嗜虐性の色が増して、時折金目に煌めく。ここが暗闇の中ならば、光の軌跡を残していただろう。  竜紅人の嫉妬からくる真竜の嗜虐性が、こんな形で果たそうとされている。  香彩の罪悪感を薄める為に現れたとはいえ、()()()()()()()香彩に、竜紅人は容赦などしないだろう。

ともだちにシェアしよう!