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第200話 兆しの夢 其の二
それは以前、夢床 に降りた時にもあった現象だ。あの時は道案内役である銀狐 について行き、夢床の随分と奥に進んでからだった。
だが今回は夢床 に降りてからまだ数歩しか歩いていない。
そして道先人である銀狐や、自分の『中』にいるはずの真竜が、やたら遠くに感じる。
それが何を意味するのか、香彩 自身分からなかった。自分の空間であるはずだというのに、身動きが取れない。行けない場所がある。夢床 は何かを示唆しているのだ。
(……何だろう)
夢床 には、そして縛魔師の見る夢には必ず意味がある。だがそれを読み解くには、あまりにも情報が少なかった。
竜の唸り声が聞こえる。
自分を呼んでいる。
やがてそれは、少しずつ近付いてきていることに香彩は気付く。
その気配と独特の唸り声は。
「──白虎!」
白い空間の上空から現れたのは、柔らかそうな白い毛並みに、黒い縞模様を持つ虎竜だった。優美な巨体が、音もなく香彩の目の前に降り立つ。
いつも通りその大きな頭に触れようとした。
だが。
(……っ!)
香彩は息を詰める。
白虎に触れようと意識しているというのに、見えない何かがそれを阻むのだ。
それは香彩と白虎の間にある、透明な壁のように思えた。
そして白い空間の地面から生えた見えない鎖が、香彩の手足をその場に縫い付けているかのような、そんな感じがした。
動けないわけではない。
ただ『進めない』のだと、そして『触れられない』のだと、自我がそう認識してしまっているのだ。
(……何でこんな……)
白虎、と香彩は呼び掛けた。
自分を呼んでいた白虎なら、理由を知っているのではないかと思った。
白虎の聡明で思慮深い深翠は、じっと香彩を見つめている。
こんなに近くにいるのに触れられない。
こんなに近くにいるのに遠くに感じる。
それが一体何を意味しているのか。
「……白虎」
香彩がもう一度、そう呼び掛けた時だった。
え、と香彩は口の中で呟く。
自分にとって有り触れた、当たり前に存在するものが、ぷつりと切れた気がした。
それはこの白い空間の、天に当たる所から自分に向かって垂れ下がり、繋がっている気脈のようなものだった。
確かにあった大きな光のような繋がりが、だんだんと小さな光となって消えていくような、そんな気分がする。
(……何だろう)
何が起こってる……?
これは一体、何……?
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