201 / 409

第201話 兆しの夢 其の三

『──香彩(かさい)様』  頭の中に声が響いた。  その声が白虎のものであることを、香彩は知っている。  二度、聞いたのだ。  本来ならば同族である真竜と、四神と契約する術者以外、聞くことが出来ないという、その声を。 『香彩様……』  白虎は言う。  どうか我々を拒絶なさるな、と。 「え」  拒絶とは一体どういうことなのか。  先程の儀式のことを言っているのか。 「……皆を拒絶なんてしてないよ」  受け入れたはずだ。  光玉が胎内で動くあの壮絶な法悦を、よく覚えている。納まるところに納まったのだというあの不思議な感覚を、よく覚えている。  あとは馴染ませ、身体を休ませれば。 『──貴方様の心に拒絶反応が出ております』 「……っ、そんな」  そんなはずがないと香彩は思った。  白虎を含めた四神とは、何度か面識があった。紫雨(むらさめ)の式神だったが、自分の要請の声に応えてくれたこともあった。それに昨年の『雨神(うじん)の儀』では紫雨から四神を借り受け、一時的にだが身に宿したのだ。その全てにおいて、拒絶反応などなかったというのに。  だから大丈夫だと思った。 「拒絶、なんて……」  『私は何とか姿を保っておりますが、他の三体は貴方様の夢床ですら、姿を保てぬほどに貴方様が遠いのです』 「遠、い……?」  確かに自分は先程思わなかっただろうか。  近くにいるのに遠く感じる、と。  だがその『感じていたもの』も、だんだんと薄っすらとしたものに変わり果てて行くことに、香彩は戸惑った。 「白虎……っ」  香彩はもう一度、目の前にいる白虎に触れようとした。だがやはり透明な壁があって、白虎に触れることが出来ない。  そしてやがて目の前にいる白虎の気配が、薄く薄く変化し、そして。 (──……消え、た……?)  香彩の中を、慄然としたものが駆け上がる。  目の前に確かに白虎がいるというのに。  白虎が感じられない。  先程まで確かに、その気配を感じ取ることが出来たというのに。  香彩様、と白虎が唸るように名前を呼ぶ。 『……どうか、どうか我々を拒絶なさるな。我々は貴方様をお守りしたいだけなのです』 「だから拒絶、なんて……」  ──本当に?  ──本当に拒絶しなかった?  ──自分から求めていながら。  ──心と身体が散々になりそうだって。  ──そう思いながらあの二人を受け入れた儀式だったというのに?

ともだちにシェアしよう!