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第222話 更なる穢れ 其の三
門の内側に入ってしまえば、強力な結界が許可された者以外の侵入を拒む。
屋敷の沓脱石まで歩みを進めた香彩 は、安堵の為か力が抜けて、その場所で蹲った。
気配を感じたのだろう。
屋敷の人形 の式が、慌てて駆け付けてくるのが見える。
香彩は式達の、抱き起こそうとする手を振り解いた。
痛む下半身を庇うようにして立ち上がると、紫雨 には決して報告してくれるなと命じて、屋敷奥の湯殿に入って鍵を掛けた。
今度こそ力が抜けたのか、湯気の気配のする脱衣処に、すとんと座り込む。
早く洗い流してしまいたいというのに、心と身体が全く言うことを聞いてくれない。決して寒くないというのに、身体の震えが止まらなくて、香彩は再び乱れた上衣 を掻き集めるようにして、自身を抱き締めた。
だがその仕草そのものが、背後から強く掻き抱かれた男の腕を嫌でも思い出す。
──香彩様、と。
──ずっとお慕いしておりました、と。
耳に吹き込まれたその声。
──先程、紫雨様と接吻 される貴方様を見てしまったのです。
──どうか、どうか一度だけ、この劣情を……! お情けを……っ!
まるで耳に膠着 いたかのように、離れてくれないその声に、冷たい汗が滴り落ちる。
男にそう吹き込まれ、背中から掻き抱かれながらも、香彩は必死に抵抗をした。だが『力』を失くした香彩に抵抗の手段など無いに等しかった。力で敵うはずもなく、胸を屋敷の外壁に押し付けるような体勢のまま、袴を破かれる。
晒された臀の双丘に、男の熱 り勃った物が擦り付けられると、その後蕾に容赦なく突き挿入 られた。
──あ……あっ、痛っ、や、いやぁ……っ!!
──かさいさま、かさいさまっ……!
背後から掻き抱かれる腕の強さ。
いきなり後蕾を穿たれる傷み。
香彩のことなど構う様子もなく、男は自分の欲望と快感を満たす為だけに腰を振る。
最後の抵抗とばかりに香彩は、男の手の甲を強く引っ掻いた。だが男は怯むことなく腰を強く香彩に打ち付ける。
肌のぶつかる乾いた音と、男の荒い息遣い、そして啜り泣くような嬌声が、人気のない静かな晦冥の狭い路地に響いた。
──くっ……!
──や、やあぁぁぁぁっっ!!
やがて男の熱が胎内で弾けた刹那、香彩の悲鳴に呼応するかのように、蒼白い光が男と香彩の間で爆ぜる。
それはまさに発動しないはずの香彩の『術力』だった。
男は香彩が『力』を喪失したのだと、噂で聞いていたのだろう。そして偶然にも紫雨と口付ける場面に遭遇し、あわよくばと思ったのだろう。自身の一物を挿入することが出来た男の行為は、本来ならば一度では終わらなかったはずだ。
男は『術力』の発動に驚き、慌てて香彩の後蕾から猛りを抜くと、這這 の体 でその場から去っていく。
暗がりの中、浮かぶように見えた、男の衣着の袖を視界の端に捉えて、香彩は打ち震えた。
白衣に紅紐の縫い取りの装飾を施してあるそれは、まさによく知る縛魔服だったのだ。
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