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第223話 更なる穢れ 其の四

 香彩(かさい)は自らを抱き締めながら、乾いた声で自身を嗤った。  その嗤声に濡れた物が混じり始めても、ただひたすら嗤った。  自身のあられもない姿を描いた春宵画が、紅麗で売られていることを知っていた。それを買う者がいることを、決して女性だけではないのだということを知っていた。  思いもかけない懸想の念を抱かれることもあるのだと、だから気を付けろと、竜紅人(りゅこうと)から散々注意されたというのに。  あの日、蒼竜が陰陽屏に牽制に行った意味を。  先程、咲蘭(さくらん)に上衣を被衣(かつぎ)のように頭から覆われた意味を、分かっているようで分かっていなかった。自身の身に降り掛かるまで、どこか他人事のように思っていた。 (……自業自得だ)  日が沈むのだと分かっていて、自分の屋敷から遠い白虎門を通った。あの先はほとんど使われていない屋敷ばかりで、明かりも少ないと分かっていたはずだ。  衆目があるとしても、中枢楼閣の私室に泊まるべきだったのだと、後悔してももう遅い。もしくは咲蘭に願って私室に泊まらせて貰えば、まだ安全だったかもしれないというのに。  身を捩れば最奥に残っていた男の熱が、後蕾から溢れ、太腿を伝う。その何とも言えない感触と、自身を蔑む心の重みのままに、香彩は今度こそ胃腑からの逆流に素直に従った。  だがこの数日の間、あまり食事の取っていなかった身体からは、胃腑の液しか出てこない。  苦しみながら出し切っても尚、心奥に根付いてしまった感情が、気分の悪さを誘う。  自分は男だ。しかも相手は縛魔師といえど、只人に変わりはなく、真竜のように自分を孕ませることなど出来ない。ただ欲望のままに、腹奥に熱を吐き出しただけだ。熱は香彩の内にある『四神の光玉』や『真竜の核』に何ら影響を与えない。ただ流れ落ちていくだけだ。  今のように。  だから忘れるのが一番いいのだと考える頭と、穢されてしまったのだと思う心が、香彩の中で(せめ)ぎ合う。  香彩はおもむろに立ち上がると、着ていた衣着を脱ぎ落とした。  覚束無い足取りのまま引き戸を開ければ、湯の温かく湿った気配がする。 (……落とさなきゃ……!)  この染み付いてしまった穢れを。  誘われるかのように香彩は、湯に身体を沈めた。そして男に触れられた部分をこれでもかとばかりに、手で肌を擦り付ける。 (──だって、落とさなきゃ……!) (落として……綺麗に……っ!)  だがどんなに洗っても、穢されてしまった事実は消えはしない。  感情の昂りが心の中で嵐を呼ぶ。 (だって……竜紅人(りゅこうと)に……っ、蒼竜にこんな身体っ……!)

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