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第250話 夢月狂 其の四

 目の前が急に暗転する。  次に明るくなった時、幻影の場面が切り替わったのか、竜紅人(りゅこうと)はもう潔斎の場にはいなかった。  寝台には気を失った香彩(かさい)と、それを労りながらも香彩の髪を(くしけず)り、額に接吻(くちづけ)を落とす紫雨(むらさめ)の姿があった。 (……あともう少しだけ許せ、竜紅人よ)  そんな紫雨の声が聞こえたと思いきや、接吻(くちづけ)が少しずつ下に降りてくる。  目蓋に、鼻梁に、頬に、唇に。  幾度も幾度も接吻(くちづけ)を落としながら、骨張った手が胸を伝い、腰の括れを滑り、後ろの花蕾に辿り着く。  探るように指を入れれば、その秘所はまだしとどに濡れそぼち、柔らかい。 「──今だけだ。許せ……竜紅人」  そして、香彩(かさい)よ。  後蕾の愛撫もそこそこに、紫雨は硬くなった自身を突き入れた。  それはまさに『義務』ではない、紫雨自身の情愛を込めた目合(まぐあ)いだった。  荒くて熱い息遣いを、目覚めない香彩にぶつけながら、激しく腰を揺らす。  やがて胎内(なか)に熱を放っても、紫雨は己を抜こうとしなかった。香彩の色付いた唇に接吻(くちづけ)を落とし、ゆっくりと腰を動かせば、胎内(なか)でまた、己が育つ。 「……かさい……!」  荒々しい紫雨の、吐息混じりの声が室内に響く。 「……っ、かさい……お前は……っ、生まれて来なかった方が、幸せだった」    ──ウマレテコナケレバ……。 「──っ!」   香彩は息を詰めた。  目を見張りながらも、その唇は震え、顔色もまた蒼白なものへと変わっていく。  目の前では気を失った香彩を、紫雨が『義務』ではなく、彼自身の色欲を持って荒々しく抱いていた。これで最後だと言いながら、その昂りが治まるまで、幾度も熱を放つ。  自分が成人の儀で気を失った後、紫雨がこんな風に自分を求めていた事実が信じられない。  そして。 (……僕の存在を否定したことが)  何よりも信じられなかった。  紫雨がどうしてこんなことを言ったのか、その訳すら知り得ないまま、再び目の前が暗転する。 (──招影(しょうよう)は)   次は何を見せるつもりなのか。  検討も想像も付かなくて、香彩は身体をふるりと震わせる。

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