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第251話 夢月狂 其の五

   やがて暗闇の中に、一筋の光が見えた。  それは春には不似合いな、ひどく滄溟(そうめい)に似た蒼々たる宵の空に冴え冴えと上がった、真月の光だった。  煌々と光が部屋に差し込み、長い影を落とす中、まだ生まれて間もない赤子が気持ち良さそうに、安らかな寝息を立てている。  産着は数少なかった母親の着衣から仕立てたもの。お気に入りだったそれを解いて、赤子のためにいくつも縫った。自分は一枚あればいいのだと笑って。  赤子のそばには、まだ幼さの残る少年が座っていた。  どこか虚ろなその目。  まるで少年の心を見透かしたかのように、夜気の湿り気を含んだ風が、灯を揺らし、人影をもゆらりと揺らした。  吸い込まれそうな深い翠水色の瞳は、赤子を見続けている。  讃えているのは。  慈愛と狂気。  深い悲しみは愛憎に溢れ、やがて怨嗟を撒き散らす。 (全て、僕の罪だ) (僕と結んだ契りは、貴女を黄泉への旅路へと導いた)  少年は両手で掴む。  やんわりと。  急所とも言える、息の通うその場所を。 (罪だ、これは。僕の罪だ) (要らない。こんなもの要らない。貴女さえいれば何も要らなかったのに) (お前さえいなければ、お前が男児でさえなければ) (罪には問われなかったというのに……!)  序々に、確実に込められる力に、火の付いたように赤子が泣き出す。  だが、愛憎に捕らわれた少年には、構う様子がない。  痛い、苦しい、辛い、お願いだから、もうやめて。  その。  凶器。  驚喜。  狂喜。  狂気。  くるってしまう。  あなたが僕の所為でくるってしまう。  くるいゆくあなたを、途切れそうな意識の中でずっと見ていた。  泣きながら。 (いらない。こんなものいらない。貴女さえいれば何もいらなかったのに。罪だ、これは。僕の罪だ。お前さえいなければ、お前が男児でさえなければ!)   貴女は死なずに済んだのだ……!  澄み渡った夜空に冴えた月の皓々たる光が、ぐったりとした赤ん坊と、息も絶え絶えに荒く吐いた少年の姿を、静かに照らしていた。

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