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第263話 真実を啼く 其の一

 倒れ込む香彩(かさい)を無言のまま支えたのは、竜紅人(りゅこうと)だった。そっと抱きかかえながら、自身もその場に座り込む。  雨神(あまがみ)と雪神が、招影(しょうよう)の毒でもある暗闇を少し裂いて作ったこの空間も、彼らの言う通り再び闇に呑まれていくことだろう。この僅かな時間に雨神と雪神が、香彩の夢床(ゆめどの)に降りられたことは、まさに僥倖だった。そして彼らの『力』を借り受けることが出来たことも僥倖だった。  香彩に付いて夢床(ゆめどの)に降りた竜紅人にとって、香彩に巣食う招影(しょうよう)の毒は、まさに手出しの出来ない悪夢のような物だった。自分自身は神気のおかげか毒には冒されないがその分、正気を保ったまま香彩の感じている罪悪感を見る羽目になる。そして自身が今、思念体であるが故に、香彩の強い思いを全て聞いて知ってしまう羽目になった。その様々な思いと出来事に、思わず圧倒されたのも事実だ。  だがその思いを知って竜紅人が初めに思ったのは、違うだろう、という、ただそれだけの思いだった。  竜紅人は深い息をついて、雨神を見上げる。 「……どこで()けばいい? 雨神、雪神」  雨神が言ったのだ。春を司る真竜の『力』を借りた蒼竜の咆哮は、常夜を照らす真実の道しるべだと。『力』を借り受けたことは分かった。だがその『力』がどのような状態の時に作動するのか、竜紅人自身よく分からなかった。  竜紅人の物言いに、雨神が呆れたようにため息をつく。 「やっと喋ったかと思いきや、それかえ? まあ、己自身が感じた物を、ようやく噛み砕いて納得したということかえ? それでまさかこちらにも、火の粉が飛ぶとは思わなんだが……若竜や。雪神には耐性がない故、八つ当たりなら吾だけにしてくれたも。しかし……」  雨神がまるで値踏みでもするかのように、香彩を抱えた竜紅人をじっとりと眺める。そんな雨神の視線を竜紅人は、冷たく見つめ返した。  雨神が八つ当たりだと言ったが、まさにその通りなのだと、竜紅人は改めて自身の感情を見つめ直す。二神が何も悪くないことは、よく分かっているのだ。  術力のない状態で雨神と雪神を夢床(ゆめどの)に迎え入れ、今年の雨を約束させる為に、香彩が何を考えたのか。その思いは嫌という程、竜紅人に伝わってきた。  香彩が最悪の事態の場合に備えて、二神に身を捧げようとしていたことを知っている。身体の奥に僅かに残った術力(えさ)を目合うことによって捧げ、雨を約束させようとしたことを知ってしまったら、冷静に二神を見ることが出来なくなったのも事実だった。

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