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第266話 偽りなき真実 其の一
初めは『降りていく』感覚だった夢床 の奥、招影 の毒の暗闇は、今は『沈んでいく』感覚のように思えた。とても大きくて底のなさそうな真っ黒な沼のような暗闇に、自ら進んで沈んでいく。足が、腰が、胸が、顔が、じわじわと沈み、やがて頭の上から足の先までねっとりとした闇に包まれる。息の出来ることが、不思議で堪らなかった。そうしてようやく『底』にあたる部分に足が付けば、粘り付いたような闇が香彩 の手足を固定し、やがて動けなくする。
厭魘艶嫣 と。
怨瘟陰鴛 と。
聞こえてくる招影 の啼き声に、どこか焦りのような、そして牽制するようなものを感じた。それもそうだろうと香彩は、心のどこかで思う。
毒の暗闇に光を挿す『力』を持つ者もまた、同じ場にいるのだ。招影 にとってそれはまさに、身を滅ぼす毒も同じだった。
だからだろうか。
粘着いた闇を更に濃くし、ここから抜け出せなくなるように、これが『現実』なのだと思い込ませるように。
先程まで『見ている』だけで終わっていた招影 の齎す罪悪感の夢が、まるで今ここで体験をしているかのような錯覚を引き起こす。
愛おしそうに自分の身体に触れる熱い手。
噛まれた胸の漿果の、じんとする痛みでさえも、随分前のことだというのに、噛まれたばかりの頃のような熱を感じるのだ。
そして骨張った長い二本の指が、蜜を溢れさせる花蕾を、これでもかと言わんばかりに責め立てる。
香彩は啜り泣くような、それでいてどこか甘く縋り付くかのような、色付いた声を上げた。
(……ああ、覚えている)
この手付きを、指の動きを。
花蕾の浅いところで、蕾を広げるような動きをされて。
「──んんっ……! んっ…ふっ、んっ……」
自ら吸い付いた接吻 に翻弄されながらも、花蕾に挿入 られた指によって、強く掻き回されて、胎内 で軽く達して。
身体の切ない疼きを人質に。
──言え、と。
誰に仕込まれたのか言えと言われて、呼んでしまった名前。
そうして喚 ばれてしまった人がいる。
それが罪悪感だらけだった成人の儀の中で一番、罪悪感を感じた瞬間だった。
(……ああ、また)
自分は想い人以外の者に齎された愛撫によって、薄桃色に染め上げられた身体を、想い人に晒すのか。
そして竜紅人 のあの顔を、あの瞳を、見なければならないのか。
(それが……罪だ)
招影 が見せ付ける、罪悪感だ。
蜜月である真竜に、二人を望んだ自分の。
喚 ばれた竜紅人が香彩に触れる。
紫雨 の手によって濡れそぼつ後蕾に、指を突き挿入 た、まさに刹那。
高らかに吠ゆる蒼竜の、厄を払う啼声が聞こえてきたのだ。
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