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蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する 第295話 最後から二番目の真実 其の一 | 結城星乃の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する
第295話 最後から二番目の真実 其の一
作者:
結城星乃
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第295話 最後から二番目の真実 其の一
香彩
(
かさい
)
はひどく気持ちの良い何かを感じて、薄っすらと目を開けた。 何だろう、とても気持ちが良くて、懐かしい気がするのに、心の中が騒ついて仕方がない。 この白い空間に捕らわれて、身動きが取れなくなってから、一体どれくらいの時間が流れているのだろう。 それすら検討も付かないまま香彩は、だんだんと強くなる『口の中の気持ち良さ』に、ぼんやりとしていた意識が、はっきりとしてくるのを感じた。 (……これは一体、何?) 気持ちいい。 この気持ち良さに、とても覚えがある。 ぴちゃり、と上の方で水音がして、香彩は視線を向けた。ぼぉうとしていた視界がやがて世界を映し出せば、今まで何故気付かなかったのか。目の前に見覚えのある蒼い衣着があった。 (──!) ぴちゃり、ぴちゃりと聞こえる淫靡なそれは、唾液を伴った濃厚な
接吻
(
くちづけ
)
の音だ。 目と鼻の先で繰り広げられる光景に、香彩は頭の中が刹那に真っ白になった。何が起こっているのか分からないまま、想い人が別の人に口付けている様をただ見つめる。 その『気持ち良さ』だけが、感覚を通じて伝わってくるのだ。 「……かさい……俺に聞かせて? 何が怖い……?」 聞き馴染んだ想い人の、欲を乗せた吐息混じりの低い声。 更に深く口付けられて、自分を捕らえている『香彩』が、くぐもった甘い声を上げる。 やめて、と声を上げそうになった。 だが何もされていないというのに感じる気持ち良さに、思わず自分も上擦った声を出してしまいそうになって、香彩は奥歯をぐっと噛んで堪える。 ふと冷たいものが、心の中に落ちた。 自分のどこにそんな権利があるのか、と。 目の前で
竜紅人
(
りゅこうと
)
が
接吻
(
くちづけ
)
をしている、蜘蛛のような長い手足をもった者もまた自分自身なのだと、香彩は自覚していた。 知られたくない気持ちと、彼に対する詫び言が生み出した心の魔妖だ。 (……それでも、嫌だ……) 僕以外、嫌だと。 彼が自分以外の者に、
接吻
(
くちづけ
)
している姿なんて見たくないのだと思う自分がいる。 だがそんなことを、どの口が言えるだろう。 自分は竜紅人以外のふたりの男に、身を許してしまったというのに。 (こんな想いを彼は……!) 何度味わったのだろう。 (それなのに)
夢床
(
ゆめどの
)
にまで付いてきてくれた、彼の優しさが恐ろしかった。 自分の為に『成人の儀』に思念体で現れた彼の優しさが恐ろしかった。 自分は何もしてあげられなかったというのに。 仕方がないのだと彼を遠ざけ、閉じ込めることしかできなかった。 あんな喧嘩をして、側にいることも出来ず、貴方以外の者と契ったというのに。 貴方は何故そんなに優しいのか。 (……優しくされる価値なんてない。むしろ貴方は酷く僕を罵倒するべきなのに) すとん、と感情が心の中に落ちる。 ああ、これが──。
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