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第296話 最後から二番目の真実 其の二

  「……っ!」  見計らったかのように、竜紅人(りゅこうと)香彩(かさい)を見た。  焼け付くような伽羅色がそこにはあった。  ああそうだ。  彼はこんな熱を抱えて自分を見ていた。身体の奥に熱さを移されるかのような、身を竦ませる熱だ。  眼差しに『熱い』という感覚があることを、初めて身を持って思い知った。嬉しいという感情が湧いて出る。まだ彼は自分をそんな『熱さ』で見ていてくれるのだと。  だが頭の中で心の魔妖が囁くのだ。  お前にはもうそんな価値などないだろう、と。  香彩の思考に合わせたのか、『香彩』の拘束の力が強くなる。その痛みに思わず声を上げそうなるのを、香彩は更にぐっと奥歯を噛み締めた。  だがその我慢もすぐに崩壊する。  竜紅人が『香彩』の耳孔を舌で責め立てたあと、滑らせた首筋を強く吸い、牙を立てたからだ。 「──っ、ぁ!」  その甘い痛みに香彩は耐え切れずに、艶めいた声を上げた。一度上げてしまうともう駄目だった。我慢をし耐えた分、次から次へと押し寄せる快楽に、熱い息が漏れる。  そんな香彩を見た竜紅人の、くつりと楽しそうに笑う声が聞こえてきた。  ようやく頬に触れてくる熱い手に、くらりと眩暈がする。 「……教えて、くれる気になったか……?」  欲に掠れた竜紅人の低い声に、香彩は思わず縋ってしまいそうになって、再びきゅっと唇を閉めた。  そんな力の入った唇を抉じ開けようと、先を硬くした竜紅人の舌が、じっくりと唇を擦るのだ。  先程の感覚だけとは違うその心地良さに、舌の熱さや次第に濡れていく唇に、香彩は息を呑んだ。  思い出してしまう。唇を濡らすその甘水のような唾液の味を。  それは無意識だった。  甘水を求めて香彩は自身の唇を舌で(なぞ)る。  その刹那の機会を逃してなるものかとばかりに、竜紅人の舌がねっとりと絡んで、強く香彩の舌を吸った。 「──んんっ……!」  つん、とした舌の根の痛みに香彩はくぐもった突き声を上げたが、それも次第に甘いものへと変わっていく。  流し込まれるのは、真竜特有の催淫効果のある甘い甘い唾液だ。こくりこくりと喉を鳴らしてそれを飲み込めば、そう仕込まれたのだと言っても過言ではないほど、自然と身体が熱くなり尾骶が痛いほどに疼く。 (……だめ……気持ちいい……美味しい)   そう心の中で思えば、香彩を強く拘束していた蜘蛛の長い手足の力が、まるで香彩の思いに連動しているかのように緩む。 (──ああ、やっぱりこの『蜘蛛』は……)  

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