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第299話 白き世界の幽囚 其の一

 香彩(かさい)を見つめる竜紅人(りゅこうと)の目は、壮絶な色香を孕んで熱くなっていた。舐めるように拘束された手の指の先から足先までを見つめられて、身体が震える。  今更だよな、と。  香彩に語りかける声色は、まるで泣きながらも笑っているかのように掠れて切なく、そして直向きだった。  「……覚えておけよ、香彩。お前がどんな目に遭おうとも、どんな風になろうとも、泣いて叫んで頼んでも、俺はお前から離れない。離さない。俺の身体を忘れられなくなるくらいに、どこへ行っても何をしてても思い出して、疼いて、俺を求めるくらいにお前の身体に刻み込む。お前の言う『好き』を怖いと、思える暇などないくらいに。たとえ逃げても狩猟本能で、どこまでも追い掛ける」 「……あ……」  力強い手に容赦なく腰を抱かれて、甘い痺れが背筋を駆け上がる。鼻腔を擽るのは彼特有の森の木々の香り。その中に魅惑的な雄の気配を感じ取って、香彩は息を呑んだ。くらりと眩暈を覚えながらも、目の前に迫ってきた美しい男の顔をぼぉうと見つめる。  竜紅人のその声に言葉に、生まれたのは嬉しさと、やはり怖さだった。  同時に、ああ逃げなきゃ、と心が叫ぶ。  こんなに激しく想われて、好きだって、離さないって言われて、嬉しくて堪らない自分がいる。  だが。 (こんな風に想われて、もしも放り出されてしまったら?) (自分を見てくれなくなったら?) (あの冷たい伽羅色の目が自分を見て、冷たい声でいつか別れようって言われたら?)  ぞくりとした恐ろしさが背筋を駆け上がる。  そんなことになったら、もう立ち上がれない自分がいる。もう全てを捨てて、命すら捨ててしまおうと思う自分がいる。こんなに想われて、貴方のいない日常に戻れるわけがない。  それが何よりも何よりも怖いのだ。  竜紅人がやがて離れていくだろう理由について、あまりにも心当たりがあり過ぎるが故に。  そんな香彩に対して竜紅人は面白そうに、くつくつと笑った。 「……だからさっきも言っただろう? 今更だって。それに……」 「んっ……」  ぐっと腰を押し付けられて、昂る竜紅人の熱くて硬いもので香彩の若茎を擦り上げられて、気の遠くなるような法悦を感じる。 「色んなことを今、夢床(ここ)で話してもお前のことだ。夢床(ゆめどの)のことだからと言って、俺の言葉をどこまで『現実』だと信じるのか分かりゃしねぇし。だったら少しでもこの心に残るように、俺を刻み込んで俺に対する罪悪感を無くしてやる」

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