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第300話 白き世界の幽囚 其のニ

   ──だから今は、俺に溺れろ。かさい。  気付けば胸元の飾り紐を引っ張られて、縛魔師の上衣がはらりと落ちる。薄紅色の内着を器用に片手で肌蹴けさせながら、袴を止めている紐を緩められて、香彩(かさい)は頭を振りながら身体を捩った。 「やだ……っ、だめっ、りゅう……」   だが『香彩』に拘束された手足は、さほど強い力でもないというのに、びくとも動かない。  竜紅人(りゅこうと)の熱い手が、香彩の透き通るような白い肌を堪能するかのように、上半身を何度も撫でる。 「だめ……っ、だめだよ、りゅ……う……!」  穢れてしまったこの身体は、どんなに禊場で洗ったとしても、竜紅人以外の臭いが染み付いているはずだ。そんな身体に竜紅人の優しい手が似合うはずがない。 「お願いだから……さわらないで……」   やがて肌蹴(はだ)けられた内着と袴が、香彩の手足を拘束している『心の魔妖』の長い手に引っ掛かる。 「──っ!」  『香彩』は何を思ったのか、香彩の手足をひとつずつ拘束を解いて、内着と袴を剥ぎ取り、再び拘束した。  そうして竜紅人の前には、一糸纏わぬ姿の香彩が曝け出される。  そのあられもない姿に、竜紅人は鋭い眼差しで香彩を射抜いた。  欲情に濡れた、捕食者の眼だ。  ぞくりと、香彩の背筋を粟立つものが駆け上がる。喰われる恐怖と恍惚さ、そしてこれから与えられる快楽を期待して、駄目だと思いながらも身体がふるりと震えた。  くつくつ、くつくつと竜紅人が楽しそうに笑う。  その喉奥で響く笑い声が、腰にじんと響く。 「口では駄目だって言っておきながら、お前の『心の魔妖』の方が素直じゃねぇか」  竜紅人のあからさまな言葉に、香彩の頬に朱が走った。  どんなに否定をしていても、竜紅人によって幾度も開かれたこの身体は、彼の声を聞くだけで、その体温を感じるだけで、熱を持って鈍く疼く。  何もかもを竜紅人に明け渡したいのだという心の奥底の願望を、『心の魔妖』は見事に読み取ったのだろう。そうして目合(まぐあ)うために中途半端に引っ掛かっていた衣着と袴を取り去った。  邪魔だと判断して。  もしくは竜紅人に見てほしいのだと判断して。

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