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蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する 第322話 嗣子と罰 其の四 | 結城星乃の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する
第322話 嗣子と罰 其の四
作者:
結城星乃
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322 / 409
第322話 嗣子と罰 其の四
彼
(
か
)
の残映を特に気にすることもなく、
叶
(
かのと
)
のいた場所から
香彩
(
かさい
)
に向かって歩いてくるのは
咲蘭
(
さくらん
)
だった。その表情はいつもの柔和な彼のそれではなく、どこか硬い。 彼の声色の裏側に隠れている感情を、ほんの少しだが読み取ることが出来たのは僥倖だろうか。 咲蘭様、と声を掛けそうになって香彩は思わず止める。 彼は歩きながらその背中から、瑞祥の象徴である黒翼を顕現させていた。稀有な翼を軽く羽撃かせている時の彼は、叶の名代として立つことが多い。 真っ直ぐに咲蘭の黒曜の瞳を見つめた後、香彩は右手拳を胸の上に置いて一礼する。 心真礼だ。 彼に敬意を込めつつも、貴方のその黒翼が一筋の光となったのだと、御礼の意味を含めて。そして全ては上手く行ったものの、このような事態となってしまったことに対して、香彩は無言のまま深く頭を下げた。 先程の咲蘭の硬い面持ちが脳裏を過る。 叶が動く前に『力』を取り戻してほしいと咲蘭は言っていた。だが結果として術力を取り戻したとはいえ、『力』を失わなければ回避出来た状況がたくさんある。 (全ては僕の不甲斐ない内面の弱さが、招いたことだ) 叶が動かざるを得なかったことも。 紫雨が病鬼を宿したことも。 寧が恋情を晒られ、圧力を掛けられて叶の傀儡となったことも。 そして意図せず二人が、『
雨神
(
うじん
)
の儀』という祀事を利用し、香彩の術力を取り戻す荒療治として
招影
(
しょうよう
)
を召喚したことも。 どれくらいの時間が経ったのだろう。 頭を上げなさいという咲蘭の言葉に、周囲のざわめきがしんと静まり返った。 一体何が起こるのかと、固唾を呑む気配が伝わってくる。 意を決するように香彩は顔を上げた。 冷たい面容に、息を呑む。今の咲蘭は元が巧緻な分、まるで全ての感情を凍て付かせた、氷の彫像のようだ。 ああ、名代なのだと香彩は改めて今の彼をそう認識する。 「……私にそうやって謝意を示すということは、私がこれから貴方に何を言うのか、分かっているのでしょう?」 咲蘭の言葉に香彩は短く、
是
(
ぜ
)
、と
応
(
いら
)
えを返す。 ふるりと震える手を、香彩は隠すようにぎゅっと握り込んだ。 そしてこれから下される下知に、覚悟を決める。 「──貴方に、
楼閣払
(
ろうかくばらえ
)
を命じます」 咲蘭の声は凛として重く、静寂に包まれた潔斎の場に響き渡った。 誰かのざわめく声も、潜む息すらも許されないような張り詰めた空気が流れる。 「国主の意図はどうあれ、元を辿れば全ては貴方が術力を失ったことに起因します。『場』を穢し、招影の侵入を許し、皆を、そして国主を危険に晒した罰です。貴方には一定期間の楼閣払を命じます。引継ぎを終え次第、退閣を」
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結城星乃
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