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第324話 嗣子と罰 其の六

「確かにこの『場』を穢し、招影(しょうよう)の侵入を許し、皆を、そして国主を危険に晒した者に罰は必要だろう。だが『国主を危険に晒した者』を罰するというのであれば、国主を前に我先にと逃げ出した司官と縛魔師や『古参の導師』達、それに国主に一口乗った俺と、そもそもの原因でもある国主自ら罰せねばなぁ」    再び紫雨(むらさめ)が面白そうに、くつくつと笑った。  それをどこか忌々しそうに見遣った咲蘭(さくらん)は、もう何度目かの大きな息をついたあとに、知っていますと、芯の強い物言いでそう言ったのだ。   「……それは後で追々、司官の上長達に個人的に追求させて頂きますよ。他人事のように言ってますが、貴方にも罰の下知が下っておりますよ、紫雨」  「ほぉう? それは愉快なことだな。一緒に悪巧みを働いた仲だというのに、彼奴(あいつ)は俺にどんな下知を言ってきたんだ?」 「──半月の蟄居を」 「女旱(おんなひでり)で干からびそうだな」 「紅麗の遊楼で侍らすだけ侍らせておいて、酒だけ飲んで帰る人がよく言いますよ」 「誰かの二の舞は踏みたくないものでなぁ。まぁ、お前のことだ咲蘭。無論、彼奴にも何か課したんだろう?」 「貴方が半月籠もるんです。あれも半月政務室にでも籠もらせて、溜まりに溜まった書簡に判を付かせますよ」    そう言って咲蘭は不敵に笑む。  身長差の関係上、自分の頭の上で繰り広げられる言い争いに、香彩(かさい)はただきょとんとしたまま、聞いていることしか出来なかった。  自分への罰の話が、気付けばこの場にいた者達全員への罰の話になっている。確かに『国主を守る』ことが出来た者、そして自分よりもか弱き者を守ることが出来た者は、ほんのごく僅かだ。残りの者は招影の姿を見て恐れ慄き、襲ってきた瞬間に逃げたのだから。  是、と紫雨が咲蘭に応えを返す。  そのすんなりとした素直な返事に、香彩は思わず紫雨を振り返った。   「……っ」    とても優し気な翠水の瞳と目が合う。言い様のない気恥ずかしさを感じてしまって、香彩はすぐに紫雨から視線を逸らした。  そんな様子を見て、くすりと笑うのは咲蘭だ。   「珍しいですね。貴方が素直に下知に従うだなんて」  「彼奴が素直に罰を受けるのだろう? だったら俺が御涅(ごね)るわけにはいかんさ。それに香彩に対しての示しもつかんしな」    確かに紫雨が素直に罰を受けると決めたのなら立場上、香彩は素直に従うしか術はない。だがそんな紫雨の受け答えも全て、香彩を公式に楼外出す為の手段に思えてくる。   「少なくとも半月は縛魔師の上長が不在となるのです。まぁ普段から(ねい)の方が仕事をしてますし大丈夫かと思いますが……紫雨、しっかりと引継ぎを」 「ああ、分かった分かった」    咲蘭の言葉の中に出た寧の名前に、香彩は自分が気付かない内に身を震わせる。  

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