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第356話 蒼竜との御契 其の四

   香彩(かさい)は蒼竜の鼻先に当たる部分を、宥めるようにそっと撫でた。そして口吻から僅かに見える蒼竜の舌から、唾液を掬い取るかのようにして舐める。  ぐる、と再び唸る蒼竜に構うことなく、怪我をしている前脚を軽く舌で(なぞ)った。するとほんの少しだが、傷が塞がっていく。  顔を上げて今度は、口吻の一番先に接吻(くちづけ)を落とした。   「……ね? 治し、たい。だから……」    僕に唾液を頂戴。  熱い息を吹きかけながら香彩は、接吻を促すかのように蒼竜の牙をこれ見よがしに舐める。  意思が伝わったのか、それとも自分に煽られてくれたのか。  低く低く唸りながら蒼竜は、竜特有の長い舌で香彩の色付いた唇を、じわりと擦る。   「あ……」    鼻を抜ける、より濃厚で甘い香りに、思わず香彩が喘ぐ。  薄く開いた唇の隙間を蒼竜は見逃さなかった。  滑らかな動きで香彩の咥内に入った蒼竜の細い舌先が、香彩の薄桃色をした舌を器用に絡め取る。そしてここから食らい付けとばかりに、蒼竜が神気の含んだ唾液を香彩に送り込んだ。   「……っ、ふ」    口の中が甘い蜜でいっぱいになると、香彩は蒼竜の口吻から離れた。  とろりと口の端から零れ落ちてしまう蜜に構わず屈む。そうして蒼竜の前脚にある傷口に、貰った唾液を塗り付けるようにして、丹寧に舐め上げた。  蒼竜の血液を取り込む度に、身体の中をぞくぞくとした官能が尾骶から駆け上がってくる。   香彩はふと竜紅人(りゅこうと)と初めて結ばれた情事の後のことを思い出していた。  あの時もこんな風にして竜紅人の傷を治したのだ。  彼の背中に付けた、とても痛そうな引っ掻き傷を。  神気を含んだ唾液を貰い、引っ搔き傷を舐め上げた。微量だったが彼の血液も舐めた。神気に浸された自分の身体が媚薬でもある真竜の体液と反応して、どうなってしまうのか知った上で。   「──っ、はぁ……っ」    全て舐め終えて香彩は、腰を高く上げた状態のまま、前脚を抱き締めるようにして突っ伏した。  傷が綺麗に治って良かったと思いながらも、自分でも信じられないような身体の昂ぶりに困惑する。  やはり人形(ひとがた)よりも竜形の方が、体液の媚薬効果が濃厚なのか。  前脚に熱い息をぶつけながら、無意識の内に腰が揺らめいた。  つつ、と後蕾から蜜が溢れ出して、香彩の形の良い白い太腿に卑猥な筋を残す。  御手付きの香りに反応したのか、蒼竜が鼻をすんと鳴らしたのが分かった。    その、刹那。

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