373 / 409

第373話 深い縁 其の三

『いま、母上が抱きかかえているこの球体の中にあるのが、小蒼竜と紅竜の竜核です』 「……えっ?」    香彩(かさい)(まじろ)ぎもせずに、球体を()つめた。  球体は視られていることに応えを返すかのように、とくりと鼓動する。確かに愛しい想い人と自分の気配が入り混じって感じられる球体だが、ただそれだけだった。  確固たる自我と彼らの気配が何も感じられないのだ。  大きな球体の中に、がらんどうな竜核が二つある。  そんな印象を受けてしまって、香彩は愕然とした。  自分は何か間違えてしまったのか。熱の受け取りがおかしかったのか。それとも途中で、気を失ってしまったのがいけなかったのか。  しっかりと()ようと思うのに、気付けば球体が滲んで見えてしまって仕方がない。  けぇんと鳴きながら音もなく香彩の肩に飛び乗った銀狐が、香彩の頬を舐める。壌竜(じょうりゅう)もまた、きゅうきゅうと鳴きながら香彩の眦を長い舌で舐めた。   『泣かないで母上。僕が喚んだのは妹達を助けてほしいって、お願いしようと思ったからなんだ』 「……まだ、助けられる、の……?」    生命の鼓動しか感じることの出来ない、この空虚な竜核を。  壌竜は当然だと言わんばかりに、高らかに咆哮する。   『──母上と、父上にしか出来ない。紅竜と小蒼竜は『足りてない』んだ。母上と父上との(えにし)が特に深い小蒼竜は卵殻膜すら出来ていない。竜核に熱が結び付いた状態で止まってしまってる』 「足りて、ない……?」    壌竜の言葉に思い浮かんだのは、先程の蒼竜との……竜紅人(りゅこうと)との御契(おんちぎり)だった。やはり途中で気を失ってしまったが為に、受け入れる熱の量が少なかったのか。  そんなことを壌竜の前で思ってしまって、香彩は途端に居た堪れない気持ちになる。だが『足りない』ものが他にどうしても思い当たらない。   (でも、まさか……)    壌竜は自分と竜紅人にしか出来ないと言ったのだ。そして『足りてない』のだと、『縁が深い』ことが理由なのだと。   (それは……)    彼との繋がり、ではないのか。  香彩の表情を読んだのか、壌竜がどこか悲しげにきゅうと鳴いた。   『──そう足りてない……縁が足りてないんだ。母上は父上から離れようとしているのでしょう?』 「え……」    驚きで心の臓がどきりと高く跳ねる。同時に壌竜に知られてしまっていることに、心が痛くて堪らなかった。彼はいまどんな思いで話をしているのだろう。   

ともだちにシェアしよう!