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第375話 片翼の睦言 其の一

 夢現の忘我と自我の狭間で、ふと意識が浮上する。  身体と心がひどく満足していた。  得難いものを得られて自分のものにした、そんな征服感と多幸感、そして愛しいのだという気持ちが溢れて仕方ない。  くわぁぁぁっ、と大きくあくびをしてから蒼竜は目を開けた。  自分の腹にとても温かいものを感じる。  そちらを見やれば、蒼竜の腹を枕にして眠る愛し子の姿があった。   (………ああ、そういえば)     御契(おんちぎり)の最後、香彩(かさい)の胎内に多量の熱を叩き付けた刹那、人としての自我がほんの僅かだが戻ったことを思い出す。  蒼竜の長大なそれを引き抜いた須臾(しゅゆ)、赤く充血した後蕾から、これでもかという程の白濁とした熱が溢れ出した。はくはくと、まだ求めているのだと言わんばかりに、ひくつく後蕾を目にして、再び勃ち上がろうとする昂りを蒼竜は抑え込む。  香彩は腰を高く上げた、あられもない姿で気を失ってしまっていた。自我が舞い戻ってきた今の状態でもう一度という気持ちもあったが、香彩の体力がもう限界だろう。  蒼竜は長く太い舌を使って、様々な体液に塗れている香彩の身体を舐め取った。あらかた綺麗になったところで、尾を使って香彩の身体を絡め取る。そして愛し子の負担にならないようにゆっくりと持ち上げた。  この部屋の寝台は、当分使うことが出来ないだろう。下敷を替えたくらいでは到底間に合わないほどの、お互いの体液が染み込んで冷たくなってしまっている。  どこか別の場所に移動しよう。  そう決めた蒼竜が部屋を出ようとした時、入り口に落ちている布の塊のようなものが目に入った。    ああ、これは。  香彩がいつも着ている縛魔服だ。  何故こんなところで、ひと纏めになって落ちているのか。    それの意味するところを悟って、蒼竜は自然と身体が熱くなった。  ここで脱いで、生まれたままの姿を晒しながら、愛し子は自分の側まで歩いてきたのだ、と。  その光景は何とも美しく、淫靡な光景だっただろうか。覚えていないことがこんなにも残念で堪らない。  蒼竜は恨めしく唸りながら、香彩の衣着を掻き集めて、竜の手で持った。  心内で深く深くため息をついてから蒼竜は、ほてほてと二本脚で渡廊を歩き出す。    この蒼竜屋敷は文字通り、蒼竜が過ごす為に作られた屋敷だった。真竜には一定期間、本来の大きさの竜形のまま、人形に戻ることが出来ない時期というものが存在する。その期間に入ってしまえば、普段過ごしている中枢楼閣では、室内に入るどころか渡廊すら歩くことが出来ない。そんな期間を過ごす為の屋敷が蒼竜屋敷だ。竜形で過ごすことを前提とされた屋敷は、その全体が高くそして広く作られている。    重さを感じさせない足どりで、香彩を気遣いながら渡廊く蒼竜は、やがて目的の部屋に辿り着いた。  

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