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第376話 片翼の睦言 其のニ
ここは寝台に使う、上掛けや下敷の替えの置かれた部屋だ。
蒼竜は香彩 の衣着を卓子 に置くと、備え付けの大きな長櫃から上掛けを複数枚取り出して広げた。これで簡易的な牀榻を作ると香彩を中央に寝かせる。
本当ならば先に湯を使うべきだろう。どんなに舐めて綺麗にしたとはいえ、湯殿でもっと綺麗に洗ってやりたいと蒼竜は思う。だが蒼竜自身がもう限界だった。先程の御契 で枯渇した神気を回復させる為か、竜形はしきりに眠気を訴え始めている。
もう一枚、上掛けを持つと蒼竜は、香彩を囲むようにして自身の身体を丸くして横になった。そうして香彩に上掛けを被せる。すると何か気に食わなかったのか、香彩が上掛けを跳ね除けるような動作をした。
ああ、と蒼竜は諒解する。
幼い時から寝入ってすぐの香彩は、むずがるようにして上掛けを嫌っていた。何故かと本人に聞いても、意識がないから分からないという。深い眠りに入ってしまえば気にならないのか、上掛けを頭まで被っていることが多い。
普段ならば香彩が熟睡するまで待って、上掛けを掛けただろう。
だが愛し子の濃い情欲の痕の残る白い裸体は、とても扇情的ではっきり言って目の毒だった。発情であまり記憶のない自分が付けた唇痕と牙痕が、妙に腹立たしく思えてくる。もう一度、この肌に上書きをするかのように、柔い肌を噛み締めたい。甘噛みがしたい。そしてまだ蕩けるように柔らかい後ろの秘所に、この楔を突き立てて、艶やかに啼いて喘ぐところが見たい。
蒼竜は己の欲を断ち切るかのように、ぐる、と唸った。あの熱の量を見れば、己がどれだけ自分の御手付きを責め立てたのか、よく分かる。香彩を休ませなければいけない。
白い裸体を覆い隠すかのように、蒼竜が尾の先端にある豊かな尾毛を、ふわりと香彩の身体の上に置いた。昔もこうやって上掛けを蹴飛ばして仕様のなかった時に、尾毛でくるんで寝かし付けたことを思い出す。
気持ち良いと言わんばかりに、香彩の寝顔が穏やかになった。その顔を見た途端、まるで何かの糸が切れたかのように蒼竜に眠気が襲ってくる。
そうして気付けば眠ってしまったのだ。
身体はまだ眠気を訴えていた。
ほんの少し頭を上げて外の様子を窺う。
刻はまだ黎明よりも少し前だろうか。夜の帳が解け、薄明の青みがかった空の光が、部屋の中をも青く染め上げている。まだ眠っていても大丈夫だろう。
そもそもいつ起きても、いつ寝てもいいのだ。ようやくやってきた蜜月を、ようやくこの手に帰ってきた愛しい御手付きと共に過ごしたい。香彩の身体を気遣いながらも、この屋敷の中、どこでもいつでも接吻 をして目合 いたい。
(……その前に色々と話をしねぇとな)
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