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第377話 片翼の睦言 其の三

 そう、まずは話だ。  思念体や夢床(ゆめどの)では会って話もしたが、実体では壌竜の事件以降、会えていないのだ。たくさん話がしたい。  腹に当たる愛し子の寝息に擽ったさを感じながらも、蒼竜は愛らしい額にそっと口吻を近付けて接吻(くちづけ)を贈る。   (──っ!)    蒼竜は目を見張った。  まるでこの接吻(くちづけ)が何かのきっかけだったかのように、眠る香彩(かさい)の目蓋に閉ざされた瞳から、つつと涙が零れて頬を伝ったのだから。   (何が……あった?) (何がお前を泣かせている? かさい)    くぉんと高く鳴いた蒼竜が、次から次へと溢れてくる涙を、痛ましく思いながら舐め取る。  啜り泣きながら香彩が、まるで縋るように竜尾を身体全体で抱き締めた。尾毛に身体をくるませ、尾の先端に顔を寄せる。  そうしている内にやがて落ち着いたのか、香彩は泣き止んだ。  口吻を使って頭を撫でてやると、安心したような表情を浮かべる。しばらくして安定した寝息を立て始めた香彩に、蒼竜は安堵の息をついた。   (夢床でまた何か、あったのか?)    眠りながら泣いてしまうようなことが。  いま香彩に干渉して夢床に降りれば、何があったのか分かるかもしれない。だが今の自分には最低限の神気しか残されていなかった。そのほとんどを香彩と、香彩の胎内に存る竜核に注いだ後だ。思念体を出すことも出来なければ、夢床へ降りる為の『力』の行使も出来ない。  香彩が目覚めてから、何があったのか聞くしかないのだ。だが夢床ではなく『現実』で話をする方が、香彩にとってはきっといいことなのだと蒼竜は思う。夢なのだと、夢床なのだという言い訳が聞かない分、お互いの言葉に真摯に向き合うしかないのだから。   (──あいつの性格上、夢床であった『自分にとって都合の良い事』は全部、あれは夢だったって片付けてそうだもんなぁ)  

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