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第379話 消鑠縮慄 其の一

 意識がゆっくりと浮上する。  やけにぼやけて滲んだ視界が不思議で瞬きをすれば、目尻からつつと涙が零れて耳を濡らした。涙が流れたのはたった一筋だけ。自分は眠りながら泣いていたのか。  そんなことを思いながら、香彩(かさい)は上体を起こした。  まだ頭の中がぼぉうと霞がかっている。自分が先程まで何をしていたのか分からなかった。  ただ肌に触れるものが、とても暖かくて気持ちがいい。このままもう一度、全身をくるまれて眠りたいと思ってしまう。   (……全身……?)    自分が一糸纏わぬ姿だと気付いて、香彩はようやく意識が覚醒した。同時に何故自分が裸なのか、先程まで何をしていたのか思い出してしまって、顔を赤らめる。  発情期の蒼竜の熱をこれでもかとこの身に受け、その暴力的なまでの快楽は、香彩の理性を容易に奪った。意識を失う直前には、自ら求めて腰を揺らした。  幾度か蒼竜と身体を繋げたことはある。  だが発情期のそれは、通常の時とは比べものにならないほどの熱の量だった。  香彩はそっと自身の腹に触れる。  いまはもういつも通りの薄い腹だったが、この腹が御契の最中に、蒼竜の熱によってぽってりと膨らんだことを覚えている。  熱楔を打ち付けるような激しい行為だったいうのに、この身体は頭がぼぉうとするばかりで、気怠さや痛みなどは全く感じられない。それに自身のものと蒼竜の白濁に塗れたはずの身体が、まるで湯殿にでも入った後のようにすっきりしていた。  洗ってくれたのだろうか。  

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