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第380話 消鑠縮慄 其のニ

 そんなことを考えながら、香彩(かさい)は辺りを見回す。  先程とは部屋が違った。寝台らしき寝台ではなく、幾つか重ねた上掛けの上に寝かされている。そして簡易の寝床を囲うように、蒼竜が身体を丸くして眠っているのだ。肌に直に触れていたものが、ふさりとした豊かな尾毛であることに気付く。通りで気持ちがいいはずだ。昔から尾毛の手触りが大好きだった。幼い時もよく触っていたし、真竜の罰を受けて人形(ひとがた)を封じられた最近も、手触りが良くて手櫛で梳いていた。  手の平で尾毛の感触を楽しみながら、香彩はうっそりとした表情で眠っている蒼竜の顔を見る。  目蓋を閉じて前脚を枕にして眠るその顔は、まさに成竜のそれだ。目から口吻に掛けて、一本の筋が通るように強く引き締まっていて、一分の無駄もない。  だがそんな反面、愛らしい寝息が聞こえてくるものだから堪らない。  香彩は腕を伸ばして、口吻を軽く撫でた。  深い眠りに入っているのか、蒼竜は唸りもしなければ、身体を捩ることもしない。ただ口吻の鼻筋を撫でられると気持ちがいいのか、くるくると喉を鳴らしている。    何て愛おしいのだろう。    そんなことを思いながらも、香彩は感じてしまった気持ちを切り替えるかのように、小さく嘆息する。  蒼竜が目を覚まして自我が戻っていたら、話さなければいけないことがある。  真竜の蜜月だというのに、御手付きとして何も出来なかったこと。  寧のこと。  そして。  

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