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第407話 竜の寵愛 其の十四 ★

  「……っ」    香彩(かさい)竜紅人(りゅこうと)を見つめながら息を詰める。  そうだと、認めているようなものだった。顔が身体が恥ずかしさで、まるで焔に炙られたかのように熱くなる。  竜紅人が腰を止めた。  蕩けるような伽羅色に射抜かれて、視線を外すことが出来ない。  しっとりと唇に降りてくる接吻(くちづけ)を香彩は、竜紅人と視線を合わせながら交わした。  美麗の伽羅色の中に、戸惑いながらも熱に浮かれ蕩けた表情の自分が映っている。  答えが全て顔に出ていた。しかもその全てを竜紅人に見られているのだと改めて認識した途端、ぞくぞくとした快楽が背筋を駆け上がってきて、胎内(なか)雄蕊(ゆうずい)を更にぎゅうと食む。   「……は」    唇を離した竜紅人が、荒く息をついた。どこか楽しげなそれでいて、どこか悔しげな笑みを浮かべて香彩を見る。   「素直になったお前に、ここまで煽られるとは。……覚悟を決めろよ、かさい」    俺に愛される覚悟を。   「あ……!」    胎内に感じていた圧迫感がゆっくりと消えていく。出て行かないでと言わんばかりに、きゅうきゅうと雄蕊に縋る媚肉の蠕動を無視して、竜紅人は雄蕊の亀頭の括れが僅かに後蕾に引っ掛かっているような、そんな場所で動きを止めた。  定められたのだと、無意識の内に身体が理解して打ち震える。  焦らすように後蕾のすぐ内側で円を描いていた二本の雄蕊が、ぐいっと腰を使って一気に最奥まで入り込んだ。   「──ひう、っ……あ、ぁあぁぁあっ……──!」    その嬌声はまさに悦楽に染まった悲鳴だった。  背に回った竜紅人の逞しい腕が、腰を更に奥へと深める為に香彩の(いざらい)を鷲掴みにする。振り下ろす腰の動きが、袋口を易々と越えて袋底に雄蕊の先端を送り込んだ。これでもかと底を突かれ、まるで寝床でも作るかのように、眠り袋の内側を捏ね回して蹂躙する。今からこの場所で熱を吐き出すのだと、眠り袋に分からせるかのように。  ああ、蒼竜だ。蒼竜と同じ動きだ。  人形(ひとがた)であっても彼は竜なのだ。  容赦ない突き上げと捏ね上げに香彩は、目の前の男の首筋に顔を埋めて、許しを請うように首を振った。   「んんっ……や、ぁぁっ、も、いっちゃ……あぁっあぁぁ……──ッ!」    必死に大きな背中に縋り付いて、襲い来る濁流のような法悦に喉を震わせながら、若茎から白濁の熱を吐き出す。竜紅人の腰の動きに合わせるかのように、幾度か白濁を溢れさせながら、香彩の腰も更なる深みを求めて動く。  白濁混じりの蜜を竜紅人の腹に擦り付けるのも構わず、彼の逞しい腰に足を巻き付けた。  いつもの余裕をかなぐり捨てて、荒々しく腰を打ち付ける竜紅人が、香彩の首筋を牙を立てる。深く食い込ませながら袋内を乱暴に捏ね回す様は、まさに竜が種を付ける行為そのものだ。痛みすら感じ入ってしまって、胎内の雄蕊をきつく食い締めているのを香彩は自覚する。   「……りゅ……う、りゅう……っ、すき……っ! りゅ……」    まだ冷めていない先程の強烈な快楽の上に、より濃密な悦楽が押し寄せ、再度絶頂に導かれ達しようとする身体に、夢中になって愛しい人の名前を呼んだ。  膨れ上がった気持ちが全身を甘く焦がす。  香彩に応えるかのように、竜紅人の雄蕊が胎内で更に硬く膨らんだ。  もう何も分からない。  気持ち良すぎて怖い。  彼の発情の甘い匂いと臀を鷲掴む力強い手、獣のように息急き切る(さま)に、自分への渇望が目に見えるようで堪らない気持ちになる。   「──あああぁぁ……──っ!」    間を置かずに訪れた絶頂では、もはや射精すらできなかった。ぎゅうと雄蕊を呑み込む後蕾に力が入り、自らの締め付けでより強く快いところを押し込まれて咽び泣く。   「……くっ……」 「──ひうっ……──!」    逃げられない快楽に気が遠くなりかけたところに、竜紅人の灼熱の白濁が袋底に叩き付けられた。  幾度も、幾度も。   「……あ、熱っ……あつ……んっっ……──……!!」    熱は雄蕊の瘤が栓となって胎内にとどまる。  それでもなお袋内に吐き出される熱が、苦しくも狂おしいほどに愛しくて、香彩の頭の中が真っ白になる。  首筋を咬みながら竜紅人が竜の声で唸った。   『……愛してる、かさい。俺の愛し子……』    脳内に直接響く愛しい人の声に、腰が震え、戦慄き、再び熱い飛沫が上がる。  僕も、と。  言ったその声は果たして音となったのか。  胎内の熱に酔い痴れながら、香彩の意識は甘い闇の中に堕ちていったのだ。              

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