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寒空_5
必死な抗議を彼はして見せる。それはそれは熱心に。
正直彼が本物の吸血鬼だろうと無かろうと私には関係のないことだ。
だけど今私の目の前で年甲斐もなく頬を膨らませる彼を見て、少しばかり絆されてしまうのは久し振りに誰かと気兼ねなく会話を弾ませたせいだろうか。
「はいはい、では二百五十歳の吸血鬼さん」
「馬鹿にしてんだろ、絶対」
「レバーが焼けました」
こんがりと焼き上がったレバーを盛り付け、彼の前に差し出せば現金なもので興味はすぐにそちらへ向いていく。
「うーまそ!いただきます!」
一緒に用意したナイフとフォークを手に彼は美味しそうに頬張った。
「ん〜っまい!天才的な料理の腕だな」
ご満悦な様子を確認して私はもう一度彼の向かい側へ腰掛け、テーブルに置かれたチーズ鱈へ手を伸ばす。
「ありがとうございます。ご主人様もよく褒めてくださいました」
「…………大切な人だったんだな。お前にとって、そのご主人様ってのは」
「もちろんです。ご主人様は孤児だった私を引き取り、育ててくださいました。父であり、母であり、時には友人であり…………彼は私にとっての全てでした」
私には両親の記憶がない。
自我を持ち始めた時、そこはすでに孤児院だった。
ご主人様に引き取られたのは小学生の頃。
「僕も家族がいないんだ。君も一人ぼっちなら、僕と家族になってくれないかな?」そう言って朗らかに微笑んだ彼の顔を未だ鮮明に覚えている。
「――本当なら、私も一緒に…………」
「ん?」
「いえ、何でもありません。ところで先程長寿と仰ってましたけど不老不死という訳ではないんですね?」
「さすがになぁ。まあ半分そんなようなもんだけど」
「といいますと?」
「俺達吸血鬼は栄養が取れなくなると羽が小さくなる。んでもって羽が完全に消えたら死ぬんだ。だから羽が大きければ大きいほど強ぇってイメージかな」
「…………比較対象がないので何とも言えませんが、貴方の羽は小ぶりなように思えますが?」
あくまでも文献で得た知識程度だが、私の知る限り吸血鬼と言うのはもう少し大きな羽を携えていた気がする。
「その通りだ」
「では栄養を十分に取れていないと?」
人の血を吸ったことがないと言っていた。やはり生き血じゃなければ栄養価にならないと言う事なのだろうか。
「いやそうじゃない。栄養は足りてるよ。けど俺の羽はこれ以上大きくならない」
「…………」
「そして、小さくもならない」
「…………」
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