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寒空_7
彼の朝は早かった。
起こされたのは午前五時半。朝が弱い私にとってそれは苦行以外の何でもない。
「おっはよー!いやー、昨日は悪かったな」
「…………いえ、それよりあんなに飲んでよくこんな早くに起きられますね。感心します」
「早起きは三文の得ってな。さ、アンタも起きてラジオ体操でもすっぞ」
「……お断りします」
もぞもぞと潜り込んだ掛け布団を勢いよく剥ぎ取られ、冷たい空気が肌を撫でた。
「はい、おはよ!」
「………………」
「んな睨むなって。美味しい特製だし巻き作ってやっからさ」
「だし巻き…………」
「おう。キッチン借りるなー」
私が体を起こすと彼は上機嫌で部屋を出ていく。
やれやれとその背中を追い、洗顔を済ませてキッチンへ。
ちょうど焼き上がっただし巻きを皿に盛り付けていた彼は、私に気が付くと得意げにそれを差し出した。
「どうだ、旨そうだろ?」
「ええ、とても」
受け取った皿を持ってダイニングへと腰掛け、彼も後をついで私の目の前へと腰掛けた。
「いただきます」
「ん、どーぞ」
湯気立つだし巻きに箸を差し入れる。抵抗を感じさせない。口に含んだ瞬間のふわふわな食感と溢れ出るだし汁に舌鼓を打つ。
「ど?ど?」
「……美味しいです、とても」
「だろーぉ?俺の一番得意な料理」
「私は、一番苦手な料理です。どうしてもこんなにふわふわにならなくて」
「そりゃあれだ、水だよ、水。今度教えてやるよ、黄金比ってやつ」
「え?」
「何だよ?何か文句あんのか?」
「いえ……」
思い掛けず未来 の約束をしてしまったような……。
「そう言えば貴方のお名前をまだ伺っていませんでしたね?」
「ん?あ、そっか。悪い、悪い。俺はアキユキ、明るい幸せって書いて明幸 」
「明るい、幸せ……」
「そー。東條 明幸 」
「良いお名前ですね」
「アンタもな、海凪。さ、それ食ったら出掛けるぞ!」
「どこにです?」
「へへ、俺の職場!」
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