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寒空_8

吸血鬼と言うのは私が思っていたよりも明るく、存外人間らしくあった。 現に、今も……。 「よし、じゃあちょっと抱えててくれ」 「え、いや、そんな急に言われてもやった事なんて――」 「ほら!モタモタすると負担になんだよ、なあ?」 彼の問いかけに応えるのはとても可愛らしい“にゃー”と言う鳴き声。 「でも……」 「ったく……ほら、ここに手を当てて、そうそのままな」 指示通り台の上に乗せられた子猫の体に手を宛てがって、私は彼の動向を見守る。 子猫の足からは僅かに流血が見られた。彼は慣れた手付きで消毒を済ませ、瞬く間に白い包帯を巻き付けていく。 「うん、これで大丈夫だぞ。よく頑張ったな」 頭を撫でられた子猫はまた嬉しそうに鳴いた。 「アンタもお疲れさん。もういいぞ」 「はぁ……はい」 言われ、私が手を離すと明幸さんは子猫を抱え上げ、診察室を後にする。 外からは飼い主であろう女性の「ありがとうございます」と言う声が聞こえた。 程なくして戻ってきた彼は昼休憩だと体を伸ばした。 明幸さんの仕事は獣医だそうだ。連れて来られたここは彼が個人で経営する小さな動物病院。本人曰く「ちゃんと免許も持っている」との事。 「今の時代口煩いからなぁ」 と肩を竦めていた。 「さて、飯だ飯!行くぞー」 そう言った彼の手にあるのは、今朝道中に買ったベーグルサンド。 「それ、お昼ご飯じゃなかったんですか?」 「ん?これだよ」 「じゃあどこに行くんです?」 「外だよ、外。日中はまだ気温低くないし、外で食べるこれは格別だぞ」 明幸さんは笑うと少し幼く見える。屈託なく笑うからだろうか。 「ほら、行くぞー」 「あ、はい」

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