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寒空_10

項垂れていた頭を上げて「見てただけ!飲もうとしてない!信じてくれ!」と明幸さんは続けた。 「そんなに必死にならなくても……」 「だって何か、嫌だろ。それでなくとも吸血鬼って人間にとったら良いイメージないだろうしな」 それはまあ確かではある。事実、私も前向きなイメージは持っていなかった。そもそも存在自体信じていなかったぐらいだ。 「その匂いって今でもするんです?」 「…………まあ。でも一昨日の晩の方が凄かった。何かこう頭がぐわんってなって、ウズウズして、抑えらんない感じの匂い」 …………よく、分からないな。表現が抽象的すぎる。 「……吸血鬼に血を吸われたら、吸われた人間も吸血鬼になってしまいますか?」 「んなわけねーだろ。ゾンビと一緒にすんなよな。……逆だよ。人間が吸血鬼になりたいなら、吸血鬼の血を飲むんだ。それもかなりの量の」 「なるほど。それじゃあ、飲んでみます?」 「は?」 「私の血ですよ。美味しそうなのでしょう?確かめてみていいですよ」 「は……、なっ、はぁ!?」 今度こそ明幸さんはベンチから勢いよく立ち上がり私と距離を取った。 「何馬鹿な事言ってんだよ!話聞いてなかったのかよ!俺は人間の血は飲まねーの!絶対!馬鹿!馬鹿!ばーぁか!」 呼吸の間もなく一気に捲し立てるものだから、言い切った彼は一人肩で息をする。 「………ふっ、はは」 「なっ、何笑ってんだよ?」 「いえ、だって二百五十年も生きてるのに子供みたいな反応するから。ははっ」 「お、俺は真面目に――」 「冗談ですよ。ちょっとしたジョークです。そんな大袈裟に反応するとは思わなかったもので、すみません」 私の言葉に彼はポカンと口を開けた。 「冗談?」 「はい、すみません」 「……そ、それならもっと冗談らしく言えよ!」 「らしく?」 「真顔で言うなっての!」 「ああ、すみません。こう言うの言い慣れてなくて」 「じゃあ言うなよな」 「そうなんですけど、言いたくなったんです。貴方を見てると不思議とそういう気持ちになる」 立ったままそっぽを向く彼は相当機嫌を損ねてしまったらしい。 「もう言いませんから、隣座ってください」 「……………………」 「ほら、ベーグルサンドも一口あげます」

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