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1-対面式ドリンキングバード(9)
あれー? そんなに俺ダメかな?
第一印象は悪くなかったと思うんだけど。
「しろやん。普通はね、恋愛する相手を第一印象だけで即決したりしないんだよ」
俺がショックを受けていると、灰谷がその顔色から俺の心中を読んで言う。
むー。
そういうパターンが多いのは分かってるけどさぁ。
「でも、第一印象で惚れることあるじゃん! 現に俺は城崎さんに一目惚れしたよ!」
「そっか。ちなみにしろやんはきのぴーのどこに惚れたの?」
「見た目と雰囲気」
「だよね。っていうかそれくらいしか、きのぴーの情報持ってないよね。……ま、いいや。惚れちゃったものはしょうがない」
でしょ?
灰谷が深い溜め息をつく。
横で城崎さんは平然と真っ赤な麺を啜ってる。もうすぐ食べ終わりそう。
え、ちょっと、もう終わったと思って会話から離脱しようとしてませんか? 俺はまったくもって諦めてないですよ? ここからが勝負ですよ?
灰谷も協力してくれるよね?
「うー、あー、うん。気持ちは分かったから、そのピュアな瞳を俺に向けるのやめてしろやん。なんか自分が汚い大人になっちゃったみたいな気分になるからさぁ」
灰谷が困り顔で俺から目を逸らす。
「そんなことないよ。灰谷は良い奴だよ。俺知ってるもん」
俺、絶対灰谷逃がさないもん。
既に城崎さんと友好的な状態にある灰谷は、手放しちゃいけない強カードだ。
「しろやん、見つめる相手間違ってるよ。俺じゃなくてきのぴー見つめてよぉ」
まず灰谷を落として、盤石の足場を組んでからね。
「灰谷いつも俺の相談にのってくれてたじゃん。結果フラれた時も、やけ酒に付き合ってくれてたじゃん。またあの頃みたいに助けてよ」
もし俺と城崎さんがうまいこと付き合ったとして、それで生じる不都合なんてない、はず。
なら、灰谷は俺側についてくれると思うんだけど。
「うーん。しろやんの力になりたいのはやまやまなんだけどさ」
灰谷がもぞもぞ言う。
「難易度高いと思うよ? だって考えてごらん。きのぴーのこの容姿でさ、フリーなんだよ。俺が知る限りずっとフリーなんだよ。理由があると思わない?」
そんなの、乗り越えればいいだけでしょ。
「しろやん、その自信はどこから湧いてくるの? ……分かったよ。俺も頑張るよ。でも、本当にダメな時は潔く諦めてね?」
本当にダメな時って何だろう。城崎さんが俺と付き合いたくないって思った時?
その時は……悲しいけどさすがの俺も諦めるよ。
「分かった。灰谷、よろしくね」
俺がテーブル越しに拳を突き出すと、ため息混じりに笑った灰谷が拳をぶつけた。
学生時代に戻ったみたいだ。
「ってことできのぴーさ、しろやんと付き合ってあげて? 良い子なことは俺が保証するよ」
ひょいと灰谷は横を向いて早速プッシュしてくれた。
だけど、城崎さんの守りは固い。食後のお茶を飲みながら、ひらりとかわされた。
「いえ、どんなに良い子でも無理ですよ。私にはそんな余裕ないんです。一日二十四時間無茶ぶりされてるんですから」
「ならちょうどいいじゃん。しろやんには癒し効果があるんだよ。しばらくしろやんのアホ毛をほよほよしてれば、大抵のことはどうでも良くなるから……え? あれ? しろやん、アホ毛はどこいっちゃったの!?」
灰谷が改めて俺を見て、目を丸くした。
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