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1-対面式ドリンキングバード(10)
アホ毛?
そんなものないよ。
「直した」
言ったら灰谷が大げさにショックを受けた。
「えー! しろやんの最大のチャームポイントが! なんで失くしちゃったの!」
そんなの決まってるじゃん。
「社会人になったからだよ。俺だって身だしなみに気を遣うようになったんだよ」
「就活してるときはアホ毛元気だったじゃん! アホ毛と一緒に面接通 ってたじゃん! やめちゃダメだよぉ! しろやんの魅力激減だよ!」
そこまで言われると複雑な気持ちになる。跳ねてた方がいいのかな。いやダメだろ。
「何ですか、アホ毛って」
城崎さんが灰谷に訊いている。
「しろやん結構な天パじゃん? いい感じにくりんくりんしてるんだけど、頭のてっぺん近くの一房がちょっと浮いててさ。髪色も明るめだし、前から見ると天使の輪みたいになってて可愛かったんだよぉ。これじゃただの天パのお兄さ……いや、男の子じゃん!」
みんなのアイドルだったのに、と、大げさに嘆かれた。
「俺は普通がいいの。ほら、そろそろ解散しようよ。昼休み終わるよ」
城崎さんと一旦離れてしまうのは寂しいけど、灰谷がいればまた話すくらいはできるよね。
そもそも同じ事務室にいるから姿は見えるし。遠いけど。
すごく遠いんだ。間を山 越え、谷 越えしないとたどり着けないし、今の俺には越えられる気がしない。
城崎さんとも仲良くなりたいけど、これから同僚になる方々にもよろしくしてもらわないと。
頑張れしろやん。うん。頑張るしろやん。
これから一緒に仕事をすることになった高山さんから、いろいろ教えてもらいつつ、仕事を始めた。
高山さんは話しやすいお兄さんだった。ラッキー。
年上の三十五歳で、現在は二人目のお子さんにメロメロみたいだ。
お子さんの名前は香奈ちゃんで、最近は高山さんの眼鏡に興味しんしんらしい。顔を近づけると眼鏡を掴もうとするんだと、高山さんは話してくれた。
音楽を聴かせると機嫌が良くなって笑うんだそうだ。将来はミュージシャンかなぁとにこにこしていた。
……うん。業務について教えてもらう度に、香奈ちゃん情報が必ずくっついてくる。話しやすいにもほどがある。
高山さんのおかげで、業務について以上に、会ったこともない幼児について詳しくなった。
あ、もちろん仕事の方もしっかり教えてくれたよ。
◇ ◇ ◇
そして数日が過ぎ、例の接待の日を迎えたわけだ。
笹りんどうの部屋でさっきから引き続き呆然自失してました。
さてさて、隣室は宴もたけなわの様子ですが、そろそろ俺は帰らなきゃね。
間違って部長達と顔合わせちゃったら気まずいもん。早く帰ろ。
ん?
俺の下半身事情?
帰らなきゃって思ったら、しゅん、って大人しくなった。
物分かりのいい子だから。うちの子。
はあ!? 歳じゃないよ、バカ! 持続力抜群だし!
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