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1-対面式ドリンキングバード(11)

二つ並んだ愛しいほくろを想いながら、帰り道をとぼとぼ歩く。 ぷるるっ。 『しろやん! 来週の夜どっか暇な日ない? 二人で飲みに行こうよ』 また灰谷に体当たりされた。 ――水曜とかどう? 『いいよ! 店探しとくけど、何か希望ある?』 ――和食がいいかなぁ。脂控えめがいい感じ。 『やだなしろやん。急に枯れないでよ』 ――枯れてないよ! 一人暮らししてるとさ、たまには焼き魚とか食べたくなるじゃん? 『あー分かるわー。やっべ、俺も枯れてる』 ――枯れてないっつーの。じゃあよろしくね。 『任せてー。んじゃね、おやすみ』 ――おやすみー。 携帯をしまって、また歩きだした。 間もなく駅について、改札通って、電車に乗った。 時間の進みが早いのは、ぼーっとしてて特筆すべきこともなかったから。あったかもしれないけど、ほくろのことを考えてる俺の頭の中には入ってこなかった。 ほくろ……。ちっちゃくてさ、でも白い肌の上で一番星みたいに健気に光っててさ。 城崎さんはあのほくろのこと知ってるのかな。 自分の後姿なんて、しかも裸身なんて、見ることないよね。知らないかな。 ……でも、城崎さんにほくろのこと教えてあげられる人は、いっぱい、いそうだった。 いっぱい。 いるんだろうな。あの感じ。 でも、でもさ。恋人、じゃないよね。 セフレ、でもない。仕事上のお付き合い……の延長線上、にいる人たちだよね? 竹田さんとか武藤さんとかさ。 俺、転職初日に城崎さんにあっけなくフラれたけどさ、あれは、そういうお付き合いをしている人がいるから、フラれたのかな。 二十四時間無茶ぶりされてるから余裕ない、とも言ってた。 部長職のことなのかな。 確かに、この年で部長だなんて、プレッシャーあるんだろうな。 だから、恋愛だなんて呑気なことしてる暇はないんです、ってことなのかな。 そういう理由でフラれたのかな。 そういうことだったら、俺でもできること……あるよね。 ま、ね。今はたぶん、例えば城崎さんの愚痴を聞く、くらいしかできないけどさ。 これから、俺もできるかぎり頑張って昇進してさ、城崎さんの右腕……は自信ないけど、露払い……いや、提燈提げて、足元お気をつけて、って行く道を照らすくらいならできると思うんだ。 それが何の役に立つんだって言われると、苦しいけど。 少しでいいから、あの綺麗なひとの役に立ちたいんだ。 そして、叶うなら、隣にいたいんだ。

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