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1-対面式ドリンキングバード(14)
あ、そうだ。城崎さんのことで、どうしても気になることがあるんだった。
……灰谷に訊いていいのかな。
はっきりさせておきたいけど……藪蛇になっちゃったら城崎さんに申し訳ないよな。
どうしよ。
「しろやん、何考えてんの」
「ん!? ん、うん」
あっけなく、俺が悩んでいるのがばれた。
さりげなく、遠回しに訊いてみようかな。
「城崎さんってさ」
「うん」
「誰かお付き合いしてる人とか、いるのかな」
とたんに灰谷に怒られた。
「何言ってるのしろやん! きのぴーはフリーだけどさ! しろやんはそんなこと気にする子じゃないでしょ! 彼氏がいようが彼女がいようが、好きになったら突撃あるのみな迷いのない子でしょ!」
「そ、そうだっけ」
「そうだよ!」
灰谷の勢いに負けかける。
しっかりしろ俺。はっきりさせるんだろ! 城崎さんのこと!
「あの……、あのさ」
「うん」
「城崎さんって、なんか……その、個人的に、体使った営業みたいなこと、してる?」
訊いちゃった。
灰谷も黙っちゃった。
違う、違うんだよ灰谷。
俺はたとえ城崎さんが訳あって枕営業する人だとしても、やっぱり好きだよ。
そんなことで城崎さんのこと嫌いになったりしないよ。
ただ、あの可憐な白百合みたいなひとについて、もっと知りたいだけなんだよ。
知らないと、城崎さんの力になれないだろ?
灰谷が俺を見据えて口を開いた。
「なに、誰かからきのぴーについて聞いたの?」
もう素直に全部言おう。
「ううん。ちょっと前に、お客さんの接待したんだよ。城崎さんと二人で。そしたら俺、途中で帰らされちゃって」
「うん」
グラスを傾けて、カラカラになった口を湿す。
「でもやっぱり俺が出て行った後のことが気になってさ」
「うん」
「隣の部屋が空いてたからさ、こっそり……さ」
意味もなく箸を箸置きに揃えて置いてみる。
灰谷は何も言わない。黙って俺の目を見つめてる。
「見ちゃったんだ。……その、なんていうか、城崎さんがお客さんの、相手、してるところ」
「相手?」
う、そこ訊く? 訊くよね、やっぱ。
「その、そのさ。大人の……お色気? て言ったらいいの? 18禁なサービスをさ」
やめてよ灰谷! 視線そらさないでよ! 気まずくなるじゃん!
「しろやん、見ちゃったの?」
「うん。見ちゃった」
灰谷はため息をついて、俺の頭を撫でた。
「それね。きのぴーのこと知ってる人は、そのサービスのこともだいたい知ってる。偉くなるほどよく知ってるよ」
「城崎さん、なんであんなことやってんの?」
「知らない。きのぴーに訊かないと分かんない」
でもさ、と灰谷は言葉を継いだ。
「しろやんはサービスのこと知ってても、きのぴーのこと好きでいてくれるんでしょ?」
もちろん。
灰谷は泣きそうな顔で笑った。
「きのぴーさ、良い奴なんだよ。ほんとに。枕もして、俺らの年で昇進もしちゃってるから、色眼鏡で見られてるけど、きのぴー本人は入社の時から変わらない、真面目な良い奴なんだよ」
灰谷は再び俺の頭をなでた。
「しろやん。しろやんも優しい良い子だから、きのぴーのこと、力づけてあげられると思うんだ」
俺が?
「しろやんときのぴー、仲良くなれると思うよ。俺も応援するよ。……だから、きのぴーの味方になってほしいんだ。ね、お願い」
「……そっか……」
俺たちはしばらく黙って、ぬるくなった酒を飲み続けていた。
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