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1-灰谷九次のよた話

はいどーもどーもどーも、ただいまご紹介にあずかりました灰谷九次ですー。ちょっとね、本編はしんみりしちゃったけど、ここは明るくいきますよぉ。 さて。あ、そうそう、俺ね、九次なんて名前つけられてるけど、九男って訳じゃないのよ。 実際は一人っ子なのよ。 それがなんで九次なのかっていうと、父親が平九郎って名前なのね。やっぱり九男じゃないけど。 九の子だから十……といきたかったけど、十のつく良い名前を思いつかなかったんだって。 だから単純に九の次で、九次ってなったわけ。うん。 てゆか九の子が十って、バージョンアップかーい! 新筐体にメジャーアップデートしたんですなー。なんちて。 あは、俺のことで特に話したいことはもうないなー。 しろやんの話しようよ。 俺がしろやんと知り合ったのは大学の入学式だったなぁ。 式が終わってさ、会場から出たら、ちょうど目の前をふわふわつやつやした栗色の柔らかそうなものが横切っていったんだよ。 なんか面白そうだったからさ、思わず追いかけちゃったわけ。 その子、十八以上にはとてもみえなかったから、誰か新入生の弟さんかな? って思ってた。 見た感じは小学校高学年くらい。かなり小柄で、手足もちっちゃかった。 髪はミディアムな緩いくるくるパーマ。 よく天使って、ゆるふわパーマな感じで絵に描かれるじゃん? ああいうイメージ。いやもっとつやつやくるくるかも。 でも俺の視線を奪っていったのはそれじゃなくて、もうちょっと上。 まるで二次元から来たみたいな、天使の輪……いや、アホ毛が、歩くたびに頭の上でほよんほよんと揺れている。 一歩踏み出すと、ほよよん。 きょろきょろすると、ほよほよ。 首を傾げて、ほよん。 何あれ、面白すぎでしょ。絶対あのアホ毛、意思もってるよ。なんならあの子アホ毛に支配されてるよ。あの天使の輪でなんか受信してるよ、絶対。 「あのぅ」 あ、在学生らしい男女の三人組に声かけてる。 「六号館ってどこですか?」 「ん? あ、えーっとねぇ」 三人で木立の向こうを指さして、説明してる。 説明が終わると、天使の輪がほよぉんとお辞儀した。 「ありがとうございます」 「分かんなかったら、またおいでー」 「気をつけてね」 ずいぶん在学生に気に入られたみたい。女の子が笑顔で手を振って見送ってた。 さて、六号館だってよ。行き先一緒じゃん。あの子について行こ。 天使に導かれるままキャンパスを歩くこと数分。 古い……いや、歴史を感じさせる佇まいの建物に着いた。 ここの六〇二教室で学生証もらわなきゃいけないんだよね。 ん? 天使? 天使はねぇ、ナンパされてる。 あの天使は男の子だと思うんだけど、男子学生二人に声かけられてる。 「ごめんなさい。今日は帰らなきゃいけないんです」 「えー。残念だなぁ。……じゃあ連絡先教えて? 近いうちに食事行こうよ。お勧めの講義とか教えてあげられると思うし」 ナンパ男子、引き下がらない。結局連絡先を交換してバイバイした。 ……お母さん。都会は怖いところです。 天使みたいにkawaii男の子が、大学構内を十分ほど歩いただけで、二組の男子グループ、三組の女子グループ、五組の男女混合グループに声をかけられるのです。個人情報が右へ左へ飛び交うのです。 天使の輪っかは撫でられすぎて、ほよんほよよんと左右に大きく揺れてる。まるで目を回しちゃったみたいに。 それでも天使は六〇二教室に入っていって、他の新入生と一緒に、学生証を受け取った。 は!? あの子大学生なの!? 小学生じゃなくて!? 受け取ったら列を折り返して帰ろうとして……俺の前でべちゃっと転んだ。 ねえ、本当にこの子大学生なの!? 今、何もないところで転んだよ!? 転んだ拍子に学生証が俺の方に飛んできたんで、拾ってあげた。 「あー……白田、有理くん?」 「はい! ありがとうございます!」 これがしろやんと初めて遭った時の記憶。この時初めて『合法ショタ』『ショタコン』って概念を心から理解したよね。 「あの、お兄さん」 「お兄さんじゃないよー。今見てたよね。俺も隣で学生証受け取ってるの見てたよね? 同じ一年生だよぉ。……灰谷九次だよ。よろしくね」 転んで床に両手をついたままのこの子に、満面の笑みで、よろしくお願いします! って言われてさ、あ、この子すげー可愛いかもって思ってさ、英語のクラス分け試験とか、課題の提出とか一緒に行ってたらさ、いつの間にか懐かれ、情が移って、二十八歳の今、この有様だよ。 ん? どんな有様かって? あのね、俺は今きのぴーの、その、『盗撮』チャンス狙ってるとこ。 休憩スペースで、きのぴーがコーヒー片手に笑顔で誰かと喋ってる。ちょっとお色気溢れる表情だからさ、撮ってしろやんに画像あげたら喜ぶかなって……喜んでくれるかなって思って……。 ……お母さん……都会は怖いです……でも人を惑わせる合法ショタはもっと怖いです……!

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