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2-雨降りパーティナイト(1)
「うー……ん……」
食堂で一人昼食を食べながら、俺は珍しく沈んでいた。
うん。珍しいけど俺だって人並みに落ち込むこともあるんだ。だってさ、知ってる? 俺今失恋中なの。もちろんリベンジ狙ってるけど、一回はっきりフラれたの。
白身魚のフライをかじって……顔をしかめた。
思いっきり骨入ってんじゃん。もう。
かじった断面から、なかなかの大物がにょきりとはえてるのを、抜き取ってお皿によける。
こういうフライにするような魚って、普通骨はあらかじめ抜いてあるんじゃないの?
こんな堂々と入ってることある?
なんか験が悪い気がする。縁起が良くない感じがする。
やだなぁ、城崎さんから告白OK貰えてないのに、そもそも話が始まってないのに、このどんより具合。
よくないよ。絶対よくない。俺の過去の経験から言ってもよくないと思う。
はぁ。分かってるよ。俺、過去の告白に良い返事貰ったことないよ。
でも、そんな俺ですら感じたことがない不穏な空気なんだよ。
この恋どうなっちゃうんだろ。
魚の骨の曲がり具合から今後の運勢を読み取るかのように、お皿をにらみつける。
俺の眼力で、凶を吉に変えてやる。そんな気迫で。
「……不機嫌そうなところすみませんけど。ここ、よろしいですか?」
向かいの空だった椅子が引かれた。涼しげな声が問う。
「あっ、はい。どう、ぞっ!?」
答えてから俺はがばっと顔を上げて相手の顔を見た。
その瞬間、白く清らかな百合が花開いて、朝露が零れ落ちる光景が、鮮明に脳裏に映し出された。
おかしいでしょ? 腹を空かしたサラリーマンで騒然とした食堂で、食べかけの日替わり定食(白身魚のフライ定食・税込四百五十円也)を前にして、苦しいほど胸を高鳴らせてる。
俺、読み違えてた。魚の骨は、吉兆だった。不穏な空気? 気のせいだった。お魚さんごめんなさい。ちゃんと美味しくいただきます。……城崎さんと一緒に!
「お疲れさまです! 城崎さん、今日は忙しそうでしたね」
なんだよもー!
どういうこと? 城崎さんから接触してきてくれるなんて!
いや、嬉しいけど! でもできれば、魚の骨睨んでるタイミングじゃない方が良かったかな。俺、不審なヤツじゃん。
「お疲れさまです。打ち合わせが続いてしまって、ばたばたしていました。職場、少しは慣れていただけましたか?」
「もちろんです! 高山さんが良くしてくださるので。ありがたいです」
城崎さんが口許だけで微笑む。思わずうっとり。
「高山さんは、お子さんの話を聞いてあげると、とても喜ばれますよ」
あ、ああ、城崎さんがあまりに可憐なので、香奈ちゃんのことを完全に忘れてましたけど、そうですね。城崎さん今日もたおやかですね。好きです。
「子煩悩なパパさんですよね、高山さん。ちょっと羨ましいです。俺もいつかあんなふうになるのかなぁ」
なんてことを言ってみたけど。しかし! 俺は子供なんかよりも城崎さんが欲しいです! あ、き、城崎さんと俺の子なら……いや落ち着け、俺。それは妄想にとどめておこ。ね?
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