26 / 120
2-雨降りパーティナイト(11)
締めのうどんをふーふーしながら食べて、楽しかった鍋パも終わりになった。
でも、まだ『今日』は残ってる。チャンスはまだある。
灰谷の部屋に暇を告げて、城崎さんと二人でアパートを出た。
「また降ってきちゃいましたね」
昏い夜空を見上げたいけれど、滝のように大粒の雫が落ちてきてそれどころじゃない。
「傘持ってるか?」
「はい。大丈夫でっ、す!」
傘を開くと同時に、雨混じりの突風が俺たちを巻き込んだ。
ざーっ! 雨粒と雨音が、手足、顔おかまいなしに打ち付けられる。
俺はとっさに遊馬さんの風上に立ちはだかって、目をつぶって歯を食いしばった。
冷たい。痛い。冷たい。
渾身の力で傘を支える。
ちょっとでも傘を向ける方向を間違えると、風にあおられて足元がふらつく。
「何やってるんだ白田、そこに立ったら直接風を受けるだろ! せめて僕の後ろに来い」
「嫌ですそんなの、城崎さん濡れちゃう」
「何言ってるんだ、もう濡れてる。いいから下がれ、白田は飛ばされそうでひやひやするんだ」
「城崎さんを風にさらすわけには」
雨粒当たると痛いんですよ? 俺が盾になってれば、ちょっとでもマシでしょう? 俺はこんな風じゃ飛ばされないですし。
「馬鹿なこと言ってないで、素直に、っあ!」
ひときわ強い風が襲ってきて、非情にも城崎さんの傘をひっくり返していった。
傘はあっさりと燃えないごみになる。
「だめだなこれは」
苦笑した城崎さんは、ちょうど飛んできたビニール袋を掴んだ。袋に壊れた傘を押し込んで持つ。
「お、風が止んだぞ。今のうちに駅に行こう」
「はい!」
生き残った俺の傘を城崎さんにもさしかけて、駅へ向かって歩き出す。
「僕はいいから。ちゃんとささないと、白田まで濡れるぞ」
「いいんです。城崎さんこそ、これ以上濡れたら風邪引いちゃうじゃないですか」
絶対口には出さないですけど、雨に濡れたワイシャツが肌にはりついて、髪もしっとり濡れていて、それはもう大変にエロティックなんですよ。風邪引く前に、確実に変質者さんとか寄ってきちゃうじゃないですか。現にもう俺は城崎さんの二の腕から目を離せなくなってるわけですし。色白だけど、ワイシャツに透けるとやっぱり肌色なんですね。あ、違う、なんだろ、皮を剥いた桃みたいに、白いけどほのかに色づいてる、みたいな。あ、ああああ、駄目です、駄目です絶対。下手に桃とか想像したから、城崎さん食べちゃいたくなってきた。絶対甘くて瑞々しくて、そこらのスイーツなんて目じゃないくらいに美味しいに決まってる。こんなエロ美味しいひとを他人に見せるわけにはいかないです。じゅる。
お願いだからこの傘の下に入ってください。
「城崎さぁん」
濡れちゃいますって。あああ、なんでそんなことするの、濡れた髪をかき上げるなんて、そんなこと。
誰を誘ってるんですか、俺ですか。俺以外だったら嫌ですよ? 泣きますからね。
「僕はいいから、白田ちゃんと傘させよ」
「城崎さんが傘の下に入ってくれないと、ちゃんとできないです」
城崎さんは急に歩くスピードを上げた。慌てて俺も歩幅を広げる。
「城崎さーん」
「だから、僕は大丈夫だって言ってるだろ」
駅までの道のりを、こんな感じで追いつ追われつしながら駆け抜けた。
ともだちにシェアしよう!