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3-蜂蜜たっぷり生姜湯(3)

「戻りましたー」 検証環境の復旧はすぐできたんだけど、帳票出力がうまくいってなくて、調整に付き合うことになっちゃったよ。あはは。もう夕方だー。 城崎さんそろそろ戻ってきたかな……あれ? 「え!?」 いない。城崎さんがいない。どういうこと!? 「あの、高山さん、城崎さんは、部長はどうしたんですか? いつもこの時間は席にいますよね?」 俺は隣席の高山さんに思わず訊いた。城崎さんなんでいないの! 「ん? 今日は体調不良でお休みだよ」 た、体調不良!? なに、城崎さんに何事があったの? いや、誰だってたまには体調悪い日はあると思うけどさ、城崎さんがダウンって、緊急事態だよ! それなのに夕方まで気が付かないって、俺、何しに会社来てんの! 城崎さんどうしたんだろう。風邪かな? え、大丈夫かな。一人暮らしだよね? 病気の時一人って、結構きついよね。体力的にも精神的にも。 看病しに行きたい。 別に何ができるってわけじゃないけど、心配じゃん。 そう、心配なんだよ。仕事なんかしてる場合じゃないんだよ。 だって、今この瞬間にも城崎さんは一人で戦ってるわけでしょ? ……よし、定時になった。さあ行こう。 ◇ ◇ ◇ 城崎さんの住所をどうやって知ったかは、聞かないでほしい。この世にはいろんな方法があるんだ。 何がともあれ、俺は今そびえたつマンションの前に立ってる。 六階だって。六〇二号室。 ここで一つわりと重要な問題が浮かび上がってる。 俺が家に行くことを、城崎さんにまだ言ってない。だって、そんなの城崎さんに言ったって、断られるだけだと思ってさ。 どうなるかな。さすがに門前払いはされないと思うんだけど。たぶん。 部屋番号を押す手がちょっと震える。 六、〇、二、呼び出し。 うぅ、反応ない。駄目かな。一人でいたい人なのかな。 ここまで来てちょっとビビってる。 『……白田?』 城崎さんだ! 「はい白田です! あの、ご飯とか飲み物とか持ってきたので、その、お見舞いというか、看病というか、ええと」 阿呆! 腰抜け! ここで慌てるな! 落ち着いて喋れ! 『……ありがとう』 微かな音がして、ロックが外れた。

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