32 / 120
3-蜂蜜たっぷり生姜湯(3)
「戻りましたー」
検証環境の復旧はすぐできたんだけど、帳票出力がうまくいってなくて、調整に付き合うことになっちゃったよ。あはは。もう夕方だー。
城崎さんそろそろ戻ってきたかな……あれ?
「え!?」
いない。城崎さんがいない。どういうこと!?
「あの、高山さん、城崎さんは、部長はどうしたんですか? いつもこの時間は席にいますよね?」
俺は隣席の高山さんに思わず訊いた。城崎さんなんでいないの!
「ん? 今日は体調不良でお休みだよ」
た、体調不良!? なに、城崎さんに何事があったの?
いや、誰だってたまには体調悪い日はあると思うけどさ、城崎さんがダウンって、緊急事態だよ! それなのに夕方まで気が付かないって、俺、何しに会社来てんの!
城崎さんどうしたんだろう。風邪かな?
え、大丈夫かな。一人暮らしだよね? 病気の時一人って、結構きついよね。体力的にも精神的にも。
看病しに行きたい。
別に何ができるってわけじゃないけど、心配じゃん。
そう、心配なんだよ。仕事なんかしてる場合じゃないんだよ。
だって、今この瞬間にも城崎さんは一人で戦ってるわけでしょ?
……よし、定時になった。さあ行こう。
◇ ◇ ◇
城崎さんの住所をどうやって知ったかは、聞かないでほしい。この世にはいろんな方法があるんだ。
何がともあれ、俺は今そびえたつマンションの前に立ってる。
六階だって。六〇二号室。
ここで一つわりと重要な問題が浮かび上がってる。
俺が家に行くことを、城崎さんにまだ言ってない。だって、そんなの城崎さんに言ったって、断られるだけだと思ってさ。
どうなるかな。さすがに門前払いはされないと思うんだけど。たぶん。
部屋番号を押す手がちょっと震える。
六、〇、二、呼び出し。
うぅ、反応ない。駄目かな。一人でいたい人なのかな。
ここまで来てちょっとビビってる。
『……白田?』
城崎さんだ!
「はい白田です! あの、ご飯とか飲み物とか持ってきたので、その、お見舞いというか、看病というか、ええと」
阿呆! 腰抜け! ここで慌てるな! 落ち着いて喋れ!
『……ありがとう』
微かな音がして、ロックが外れた。
ともだちにシェアしよう!