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3-蜂蜜たっぷり生姜湯(4)

部屋のドアは、引いたら開いた。 玄関には誰もいない。しばらく立ち尽くしてたけど、思い切る。 「お邪魔、します」 もそもそと断って、部屋に上がった。 玄関には、革靴が一足だけ出てた。 廊下を進んで突き当りのここがたぶんダイニング。 誤解を恐れずに言うならば、殺風景な印象をぬぐえない部屋だった。 それなりに広いのだけど、家具が少ない。必要最小限のものは揃っているけれど、それ以上はない。 「あぁもう、わざとだ。こんなのわざとに決まってる。初めから風邪をうつすつもりで僕を呼んだんだ。出社したら絶対……絶対……絶対なにか仕返しするからな。今はまだ具体案が思い浮かばないが、絶対だ」 どこからか、木枯らしみたいに掠れた、恨みがましい声が聞こえる。 え? 城崎さんどこですか? 「城崎さん大丈夫ですか……?」 「はッ!?」 見つけるのは俺の方が早かった。 ソファと食卓の間の床を這いずっていた城崎さんが、キッと振り向く。 俺はその場でしゃがみ込んだ。テーブルの脚を挟んで城崎さんと目を合わせる。 「勝手に上がりこんですみません。白田です。体調不良って聞いたので、何かお役に立てればと思って来てしまいました」 城崎さんが俺を睨んだ……と思ったら、がくりと床に突っ伏して力尽きた。 「城崎さんッ!」 思わず名を呼んでも、ぐったりと床に伏せたまま。 慌てて駆け寄って抱き起した体は、うだって熱かった。 「ごめんなさい。俺がチャイム鳴らしたから起きてくださったんですよね。辛いとこなのに本当にすみません」 「……ここまで頑張ったんだから、何か、飲ませろ」 「はい。俺用意しますから城崎さんは温かくしててください。ね? じゃあベッド、行きましょ」 しまった。『ベッド行きましょう 』ってちょっとアウトじゃない? エロいよね。俺今ちょっとドキドキしてるもん。 いや、大丈夫、血流はまだ下に行ってないから。ちゃんと健やかに全身を均一に巡ってるから。 駄目だ、ダメダメ。 城崎さんは病人なんだ。それなのに俺が不埒な妄想をふくらませるなんて、とんでもない。 熱で赤い顔してちょっと目を潤ませてる城崎さんはたいへんにエロティックだけれども! それでふくらませるのは、いけません。 城崎さんを支えてベッドまで連れて行く。 「鍵、かかってなかったか」 横たわりながら、城崎さんが呟いた。 「昨日帰ってきたときから、体がだるくてしょうがなかった。それでもいつも通りに鍵もかけたつもりだったんだが……情けない」 「その時にはもう熱が出てたんじゃないですか? 無理もないですよ。ところで、なんでこんな風邪ひいちゃったんですか? 寝冷えでもしました?」 「それ、聞くか? ……他人(ひと)にうつされたんだよ」 「え」 ああ、聞かなきゃよかった。例のお仕事してたのか。 「普段はキスなんかしないんだが、昨日は何故か求められた。たぶん向こうは自分が風邪をひいてるのを分かってやったんだろう」 「うぅ、もういいです。分かりました」 城崎さんが止めてくれない。俺はもう聞きたくないってのに。 「犯人は、今日休んでた役員だ」 はは、と城崎さんはやけ気味に笑ってる。

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