「もう、ダメです。病気の人は安静にしてください」 そもそも俺が来たから城崎さんがベッドを出たわけなんだけれど、それは棚に上げておく。 俺は毛布を城崎さんの顎まで引っ張り上げて、冷えないように左右の端を体の下に押しこんで、城崎さんをくるんだ。熱い両手も毛布の中に押し込む。 城崎さんが何と言おうと温かくしてもらう。 「おい……、何だこれ。こけしは勘弁しろ」 「ダメです。これが一番温かいんです」 あらやだ、なんか美人さんが簀巻きにされてる。筒状に丸まった毛布の端から、城崎さんが顔だけ出してる。 いや、俺がやったんだけど。うっかり珍妙なものができちゃった。 「んっ、く。けほ、げほげほっ」 城崎さんが急に息を止めたかと思うと、俺に背中を向けて咳き込んだ。つらそうな呼吸。 「げほっ、白田、ありがとう。助かったから、その、もう帰れ」 背中を震わせて咳き込みながら、そんなことを言う。 ……え、あ、そっか。静かにしてる方がきっと楽なんだよな。俺がいたら、多かれ少なかれ気を遣っちゃうだろうし。今思い出したけど、そういえば俺、城崎さんにフラれたところだし。普通気まずいよね。 「はい、帰ります。あの、少しですけど、食べやすそうなもの買ってきたんで、これだけ冷蔵庫に入れさせてください」 俺がぱたぱたと買ってきたものを適当に片付けている間も、城崎さんは咳き込んでいた。 「けほっ、白田、もういいから、わざわざ来てくれたのにすまないが、早く帰れ」 「あとちょっと、ちょっとしまったら帰ります」 そう答えたら、けほけほとまた咳き込んだ城崎さんは体を起こして俺を睨んだ。 「すぐに帰れ馬鹿！　うつるだろ！」 「え、あ、うつる？」 「来てくれたのは本当に、本当に嬉しい。ありがとう。でも、僕咳が出てるから、危ないだろ！　白田にうつしてしまったらどうするんだ」 ん。ん？　城崎さんが俺に帰れって再三言ってるのは、気を遣うとかじゃなくて、うつるかもしれないから？ 邪魔とかじゃなくて、俺も風邪引くから？ 自分が辛いのに、俺のことを心配してくれたんですか？ 「大丈夫です！」 「何が大丈夫なんだ」 「うつらないと思……あ、マスク。マスクします！」 確か持ってきたはずだよ。袋をがさがさする。 ほら。あった。 「ね？　俺、マスクしますから。うつらないようにしますから。大丈夫です。居させてください。お願いします」 城崎さんはしばらくなにか言いたげな顔で黙っていたけれど、最後に手を出した。 「僕にも一枚くれ。それなら……いいだろ」 城崎さんもマスクをして、顔を見合わせた。 「えへへ」 俺は、城崎さんが、自分の方が辛いだろうに俺の体を気遣ってくれたことがどうしようもなく嬉しくて、頬を緩めて笑ってしまった。城崎さんには呆れ顔でため息つかれちゃったけど。