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3-蜂蜜たっぷり生姜湯(8)

たまに短く仮眠をとりながら、城崎さんの隣にずっと座っていた。 一晩みてたなんて城崎さんに知られたら、睡眠はちゃんととれって叱られちゃうかな。 でも、あんなに苦しそうに咳き込んでた城崎さんを思うと、同じ部屋にいるとはいえ、何かあったら、そしてそれに俺が気づかなかったらどうしよう、って不安だったから。これでいいんだ。 三回目にうとうとして、ふと目を覚ました時だった。 「……ん、ん……」 城崎さんが眠りながらも、力が抜けたように軽く唸った。 あ。顔色が良くなってきてるかも。 灼けるようだった体温も、なんだかマシになっているような。 水分取ってひと眠りして、熱下がってきたのかな。 そういえば咳もしばらく出ていない。 お、良かった良かった。 汗かいてるなー。拭いてあげよ。 マスクも暑いですよね。ちょっと外しましょっか。 咳止まったし、もう平気ですよ。 失礼しまーす。 「ぅん……ん、白田? まだいてくれたのか」 城崎さんが目を覚ました。 俺を見て、微笑んでくれた。 「気にしないでください。あれです。惚れた弱みってやつです」 「ふふ。それはちょっと違うだろ。でも、ありがとうな。一人じゃ何もできないからな、助かった」 城崎さんは表情を緩めてそう言ってくれた。 少し笑って、また少し水分を取って、少し話をしたら、城崎さんは眠ってしまった。 でも、寝顔が穏やかだから、きっと体もだいぶ楽になったんだろう。 すう、すう、と規則正しい寝息が聞こえる。 ほんとに綺麗な顔してるよなー。こんな時なのに、つい見惚れちゃう。 鼻筋がさ、すぅっと細くまっすぐで、つん、と小さな鼻がお澄まししてる。 薄めの唇はごく淡い紅色で……あれ、ちょっと唇荒れてるよ。 下唇の中央辺りがかさついてるように見える。 リップクリーム……あった。けど、どうしよう。 これ、いきなりぐりぐり唇に塗ったら、びっくりして城崎さん起きちゃうんじゃないか。 指にとって、優しく撫でるようにしてつけてあげたらいいかな? あ、いや、それよりも……。 俺が自分にたっぷりめに塗って、それでちょんってした方が確実につくんじゃない? ねえ? いや、城崎さんにキスしたいからじゃないよ? 違うよ? ただ、唇荒れてるからケアしてあげたいだけ。 やましい気持ちなんてこれっぽっちも……あるけどさぁ。 もちろん! 当然! 城崎さんにキスしたいっていう気持ちはあるけれども! 今はただ、城崎さんのために一つでも多く何かしてあげたいの! 唇荒れたままほっといたら、乾燥が酷くなって、切れちゃったりして、痛いことになるかもしれないじゃん。それは誰しも嫌でしょ? だからさ。 今のうちにリップクリーム塗っといた方が良いんだって。 はい決定。潤い大事。キスします。 あ、間違えた、リップクリーム塗ります。 まずは俺が塗って……しっかりめに塗っとこ。 そしてそして、城崎さん失礼します。起こさないように気をつけます。 ベッドのヘッドボードに手をついて、眠る城崎さんを上から見る。 ……いやいや、見惚れてないで。俺。ちゃんと目的果たすよ。 下唇を啄むみたいに、三回。どきどきしながら唇に触れた。 うーん、もうちょっとかな? 追加でもう一回、唇を食むようにクリームをなじませる。 そしたら。 城崎さんが、ふうってため息をつくように息を吐いて、少し口を開いた。 あわわわわ……って俺が動転すると思った? 見損なってもらっちゃ困るな、そんなことじゃ俺は慌てないよ。 冷静に、かつ優しく、そして静かに、初めて会った時から恋い焦がれてやまないひとを抱いて、ゆっくりとキスをした。 口の中はやっぱりまだ少し熱くて、さっき飲んだスポーツドリンクの味がした。 城崎さん、何と言われようと、俺はやっぱり貴方が好きです。 だから早く元気になって、仕事中のカッコいいところ、いっぱい見せてください。 貴方のためなら、俺は何だってしますから。

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