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3-蜂蜜たっぷり生姜湯(10)
ッポーン!
んん……何?
チャイム鳴った?
うちのチャイムは壊れてて、途中からしか鳴らないんだよね。
うとうとしてて、聞いてなかった。
しょうがない、ちょっと玄関見てくるかぁ。
そういえば、ずいぶん久しぶりに部屋から出るわぁ。
動けないから寝てるしかないんだもん。
今は立ち上がれたから、体調がちょっとはマシになってきたのかな?
あー、玄関遠い。
なんか床がフワフワしててさ、壁づたいに行かないとうまく歩けないんだ。
あとちょっとっ。……ぅあっ!
!
痛ったー!
玄関上がったとこに敷いてたマットで足滑らせて転んじゃったよ。
思いっきり尻餅ついて、お尻が痛い。
これって痣になるかなあ。
お尻に痣とか、カッコ悪いね。いたた。
他人に見られるわけじゃないからいいけどさ。お風呂場で鏡をふり返って一人苦笑する未来が見えるよ。
はいはいはい。お尻痛いけど玄関開けようね……ぅえ。
慌てて立ち上がったら、今になって強烈な立ちくらみがきた。
視界が真っ白で何も見えないけど、ここは勝手知ったる我が家。玄関開けるくらいは何とかなります。
手探りで開錠したら、待ちかねたように外の誰かがドアを開けた。
「おい白田、今倒れたか? 倒れたよな? すまない、無理させて。怪我してないか? 大丈夫か?」
なんと! 何も見えないけど城崎さんだーー!!
え、熱のせいで幻覚見てるとかないですよね? 灰谷が城崎さんに見えてるとかじゃないですよね? 本物ですよね? 城崎さんがわざわざ俺のお見舞い来てくれたんですか? どうしよう。抱きつきたいくらい嬉しい。
「いえいえ全然大丈夫ですよぉ」
へらへらしながら、俺はとりあえず真っ白な視界を何とかしようと、壁にもたれて目を軽く閉じた。
「それのどこが大丈夫なんだ白田。顔色も悪いぞ。ちょっとじっとしてろよ」
城崎さんがそう言ったかと思うと、俺の体を横抱きにした。
「ひぇ?」
「白田、軽すぎる。ちゃんと食事してるか?」
なに、なに、なに!? なんか足が地面についてないんだけど、俺今城崎さんにお姫様だっこされてるの!?
違うの! 逆! 逆がいいの! 俺が城崎さんを颯爽と抱いてベッドにエスコートしたいの!
論点がずれてる? 知るかぁっ!
そりゃ俺は城崎さんより背は低いし童顔だけども!
俺は可憐な城崎さんの騎士 になりたいの!
もー! ……なんて憤慨してみたものの、抱かれて見上げる城崎さんはそれはもうカッコいい。
いつもの可憐な雰囲気とはまた違って、キリッと頼もしくてカッコいい……男前……。
ぽやぽやぽやーんと恋する乙女モードで城崎さんを見つめてたら、城崎さんは迷うことなくベッドを見つけ、ふわりと優しくベッドに俺を下ろした。
は、え、もう終わり?
カッコいい城崎さんをもうちょっと見ていたかった……。
これだからワンルームは駄目だな。
せめて2LDKくらいあればこの幸せをもう少し長く堪能できたのに。
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