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4-用法・用量を守って正しくお使いください(6)
映画が、終わった。
俺はエンドロールを眺めながら、城崎さんになんて声を掛けようかと、脳味噌フル回転で考えていた。
『お腹すきませんか。一緒にご飯食べに行きませんか』って言う?
ご飯は重いかな。お茶飲む程度の方が、頷いてもらえるかな。
エンドロールが終わって客電が点き、皆ぞろぞろと客席から通路を通って出て行く。
後ろの座席だった俺たちは、人がはけるのを座って待った。
先に口を開いたのは城崎さんだった。
「面白かった、です」
ぽつん、とそんなことを言われて、思わず顔を見たらはにかむように微笑まれた。
「そ、うですね。面白かったですね! やっぱり灰谷セレクトは外れない」
ふふ、と城崎さんが笑った。
「余韻を楽しみたいですし、どこかカフェにでも行きませんか?」
はあぁあぁあー! 城崎さんに先に言われちゃった。
もちろん賛成ですよ城崎さん。
「いいですね。隣の商業ビルの一階にカフェありましたよ。行きましょう!」
売店を通りしなにパンフレットを買って、そのまま外へ出た。
夜九時。通常のカフェであれば閉店していそうな時間だが、ここは映画館の帰りの客が来るからか、カフェバーとして営業していて、それなりに賑わっていた。
席に着くと、城崎さんはフードメニューを取り上げた。
「すみません、実は私夕飯を食べそびれてまして。軽く食べても、いいですか?」
もちろん。悪いわけない。
城崎さんはワインとピザ、俺はカクテルを注文した。
先に乾杯だけして、二人でパンフレットを読みふける。
えーと、ここから映画の話が出てくるので、大したことではないけど注釈を入れておくね。主人公の敏腕エージェントは間宮薫、冴えないリーマンは羽田 幸人、という役名、です。羽田は朝まで飲んでて二日酔いというコンディション。現代日本が舞台だよ。注釈終わり。
「スパイ映画ってハリウッドとかでお金かけて派手にやるものってイメージだったんですけど、国産でも良作があるんですね。間宮、カッコよかったなぁ。アクションのキレがめちゃくちゃ良かったですよね!」
俺はちょっと興奮気味。もちろん城崎さんと一緒に食事ってのに浮かれてるけど、映画が期待をはるかに超えて面白かったんだ。灰谷に感謝だね。
パンフレットから目を上げた城崎さんが微笑んだ。
「最後の爆破シーン以外はスタントマン使ってないそうですよ。殺陣が大変だったって」
「えー! あれ全部本人ですかぁ。だって動きが、もう、なんていうか、俺の語彙では表せないくらいの迫力でした。……うーん、頭悪いなぁ、俺」
「ふふ。そうですね。迫力ありましたね。私は中盤の羽田さんの鉄骨渡りが、冷や冷やして見てられませんでした。無事に渡りきって、一緒にほっと一息ついてしまいました」
「あぁ、あのシーンも迫真に迫ってましたね。お前できんのかよ! 二日酔いでふらついてんじゃないのか!? って内心止めてました」
楽しくて、城崎さんのピザもちょっと貰いながら夢中で話していた。
美味しいカクテルと、城崎さんの心底楽しそうな笑顔に酔ったんだと思う。
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