51 / 120

4-用法・用量を守って正しくお使いください(9)

ああどうしよう。ついに俺、あの城崎さんとお付き合いすることになっちゃった。 か、顔がどうしても緩んじゃう。 しっかりしろ、俺。期限付きなんだぞ。一か月後には、俺と別れたくないって城崎さんに思わせなきゃいけないんだ。 まずはどうする? 「あ、あのっ、遊馬さんって呼んでいいですか?」 「は?」 「呼称の変更は、親密度を高める効果があると思います!」 城崎さんは変わった生き物を見るように俺の顔をしばらく見つめた後、ふい、と顔を背け前を向いて歩き出した。 「お好きにどうぞ」 これはOKってことだよね? やった!! 城崎さんに、いや、遊馬さんについて行きながら、さあ後もう一つ! 「俺のことは、引き続き『しろた』って呼んでもらえませんか? 呼び捨てがいいです」 「なぜ、わざわざ名字で?」 「初めて会った時に、遊馬さんがファーストネームと間違えて呼んでくれたのが、なんだか特別な気がして忘れられないからです」 『しろた』……うーん、漢字をあてるなら『白太』かな……呼ぶ声に優しい温もりを感じてキュンとしたから、なんて口に出さないよ。余計なこと言ってたら、遊馬さんの気が変わっちゃう。 「……心がけます」 「ありがとうございます!」 前を向いたまま、先が思いやられるとでも言いたげに、遊馬さんはため息をついた。 「遊馬さん、遊馬さん!」 「なんですか。いきなり連呼しないでください」 ふわふわしてる俺とは対照的に、遊馬さんはなんだか既に醒めてる。 これは良くないよね。うん。どうしようか。 「遊馬さん」 「はい」 「明日休みですし、遊馬さんの家に泊まりに行っていいですか?」 「え」 遊馬さんが固まった。何か考えているのか、はたまた突然の提案に驚いただけなのか分からないけれど、表情が固まったついでに、足も止まった。 あ、チャンス。甘えちゃえ。 ひょこんと遊馬さんの前に立ちふさがって、遊馬さんの右手を捕まえる。俺の両手でその手を握りながら、柔らかな笑顔で遊馬さんの顔を見上げた。 「この間は遊馬さん体調悪くてそれどころじゃなかったし、どんなお部屋かなんて覚えてないんです。なので、改めて! 遊馬さんのお部屋に遊びに行きたいです」 遊馬さんはしばらく黙って俺の顔を見ていた。 「……可愛子ぶりっ子してますか?」 う。してますよぉ。いいじゃないですか。 「まだお試し期間ですから。遊馬さんに一か月でサヨナラされたら俺、立ち直れないですし。全力であたらせてもらいます」 もう、使えるものは全部使ってでも、遊馬さんを手に入れますから。 「堂々と言われると、意外と悪い気はしませんね。どうぞご随意に」 「で、明日は?」 「ちょっと散らかっていて、整理したいので、また次の機会にお願いします」 ビジネスライクにそれだけ言うと、遊馬さんはまた歩き出した。 えー! いいじゃないですか遊びに行っても! 散らかってるところも、むしろ見たいです! 心の声で存分に抗議してから、俺は遊馬さんの後を追いかけた。 「じゃあ、日曜日はどうですかーっ!」 ちょっとやそっとじゃ、俺は負けない!

ともだちにシェアしよう!