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5-ばかしあい(1)
「何考えてんの、きみら!? それ、どういうことだか解ってんの!?」
二十時の食堂で緊急招集会議。
灰谷がヒートアップしている。食堂の管理者が見たら顔をしかめるだろうな、という勢いでテーブルをばんばん叩いている。
話し始める前に、場所が狭かったので、そこらにあったテーブルを一つ引きずってきたのだけど、ずり、とやったらテーブルの脚先についている部品がいっこ取れた。だってなんか年季入ってるんだもん、無理ないよ。見なかったことにした。
つまり何事もなかったんだけどさ、それ以来、やたらとぐらつくテーブルになっちゃった。
灰谷が熱くなるたびに、テーブルががくがくシーソーみたいに揺れるんだよ。
さっき通りかかった仕事終わりの清掃のおっちゃんがこの音を聞いてため息をついていったから、しかたなく俺は、なるべく揺れないように一人頑張ってテーブルを押さえてる。
向かいにいる灰谷の右側の脚が短くなったってことだから、俺の左側手元の脚が上がらないよう、手で上から押さえつけてるんだけど……。
「一か月ってナニ⁉ 意味解んない!」
灰谷が興奮して、その一本短い脚の近くを掴んで半分身を乗り出してる。だってほらお尻が椅子から浮いてるし。体重かけたら無理だよー! 灰谷無理! 押さえきれない!
「きみら付き合う気ないの!? なんで期限きってんの!? 来月にはバイバイなの? 違うでしょ? ラブフォーエバーでしょ!?」
迫ってくる灰谷の勢いに圧されて、俺の隣に座ってる城崎さん、あ、いや、ごほん! 遊馬さんが少しのけぞった。
ね? いいでしょ、呼んでも。まだ会社にいるけど、定時過ぎてるし。ね? あすまさん。……遊馬さん。ふふ。やば、嬉し。嬉しいよぉ! 遊馬さんて呼べるの嬉しいよぉ!
赤くなった顔を両手で覆ったら、テーブルが勢いよく灰谷側に傾いた。
「わっ、とと。これずいぶんがたがたしてるね。……何やってんのしろやん。さすがにここ泣くところじゃないよ」
泣いてないよ! 泣いてない! でも顔上げられない! 頬が熱いよー!
「はい! すかさずきのぴーフォロー!」
「え? 僕か?」
遊馬さんがそう言ったかと思ったら、ひやりと冷たい手が頬を隠した俺の手に触れた。
「しろ、た? どうした? 泣いてるのか?」
遊馬さんの手は絹みたいに滑らかですべすべしてて、冷たい。
俯いたままぶんぶん首を横に振ったら、そのすべすべが俺の右手の甲をするりと撫でてくれた。
……えろ!
遊馬さんなんでそんな細かい仕草までえろいんですか。
俺の顔が更に赤くなるんですけど。
「しろた、顔、赤いぞ」
そんなことを言って遊馬さんが顔を覗き込んでくるから、俺はそのすべすべを捕まえて顔をあげた。顔はもちろん真っ赤っかだよ。
「遊馬さん!」
「な、なんだ」
「一か月の区切りは、なんとなくでずるずるしないためのけじめですよね! 一旦足を止めて、二人の気持ちを整理して、やっぱりこれからもお付き合いしましょうね、って確認するためのたんなる目安ですよね!」
「う、うん? そうだったか」
「そうです!」
発見した。遊馬さんは、目を合わせて勢いよくぶつかれば、意外と流されてくれる。
「そ、そうか」
ほら。
一か月についてだけど、本当は俺、この期間は、遊馬さんの気持ちをどれだけ俺に向けられるか、そのためにあると思ってる。
だってまだ俺の片想いなんだもん。遊馬さんは一回も俺に「好き」って言ってないもん。
一か月間、俺の良いとこも駄目なとこも見てもらって、その上で、遊馬さんから「好きだ」って言葉を貰うんだ。そのための一か月だ。
その言葉を貰えない未来なんて、俺は考えない。
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