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5-ばかしあい(2)

テーブルから手を離して、椅子に座った灰谷は言う。 「ふうん? ほんとに? なんかきのぴーの気持ちが見えないんだけど」 う。遊馬さんはまだ俺のこと好きなわけじゃないって、バレてる? 「灰谷が性急すぎるんだよ。実際、一週めのデートしたもん。遊馬さんと仲良しだもん。これであと三週もあるんだよ。何も問題ないじゃん」 納得いかない顔の灰谷。 「デート、ねぇ……まぁ、当人達が満足してれば良いんだけどさ。初めてのデート、幽霊でしょ? スベってないかな、て、心配にもなるよぉ」 そう。遊馬さんとデートした。記念すべき初デート! 土曜日は断られたから、日曜日におでかけすることにした。 うん。それはもうお願いにお願いを重ねて、遊馬さんと一緒におでかけする権利をいただいた。 それで日曜日、特に目的を決めずにぶらぶらして、さてどうしよう、天気もいいし、ボートに乗ろうかって、大きい池のある公園に行ってみた。 あ、あひるボートありますよ、あれに乗りませんか、なんて言いながら池の周りをぐるりと歩いている途中、気になるものを見つけた。 白っぽいポスター。近くに寄ってみると、綺麗な、でも足元がぼかされてる女の人が柳の下に立ってる絵が描いてあった。日本画だよ。 どうやら、隣接してる美術館で、幽霊をテーマにした企画展をやってるらしい。 面白そうじゃん。俺は今デート中であることを忘れて、そう思った。 思ったので、言っちゃった。 「遊馬さん、これ、行ってみませんか? 俺、幽霊画見たことないです」 遊馬さんは不意を突かれたように俺を見つめた。 「幽霊? あ、ああ、いいけど」 目的が決まった。遊馬さんはきょとんとしてるけど。 いいんだ。幽霊だったら、怖がるふりして遊馬さんにしがみついたりとか可能じゃん。いけるよこれは。俺そういうの得意だよ。えへ。さりげないボディタッチね。 そんな魂胆で遊馬さんと一緒に美術館に入った。 チケット買って、ドキドキしながら行ってみた。さ、遊馬さんといちゃいちゃするよー! ◇ ◇ ◇ ……。 「ふぅん。想像していたのより迫力あるな。おいしろた、四谷怪談のお岩さんの面だぞ。目蓋の腫れが生々しいな。こんなの伊右衛門絶対に逃げきれないだろ」 ちょ、ちょっと。 「わ。これなんて綺麗な絵じゃないか。どこが幽霊なんだ? ……あ、この腰巻血染めだ。自分の血なのか、他人の血なのか、後ろ向きで顔が見えないのが余計怖いな」 いやいやいやいや。 「遊馬さんッ、待ってッ」 押し殺した声で精いっぱい遊馬さんを呼んで、手を伸ばした。 怖いんだよぉ。襖の陰にいる幽霊がさ、たもとで顔隠してこっちを覗こうとしてるんだけどさ。 「遊馬さんっ、今この人俺のこと見たッ。絶対たもとずらしてちらって見たッ」 俺は一枚の画の前から動けなくなっちゃった。画の中の幽霊と、目が合ったんだよぉ。 「ん? ああ、確かに今にもこっちを見そうだな。しろた、これが気に入ったのか?」 「違うの違うの違うんですッ。見そう、じゃなくて、見たのッ。俺のこと見て笑ったのッッ」 「ふふ。しろたは想像力が豊かだな」 遊馬さんは笑ってるけど、俺は本気で怖い。いや、実際見たんですってば! 遊馬さんの服の裾をぎゅっと掴んで、俯いたままなんとかその画の前を脱出した。

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