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5-ばかしあい(12)
「ごめんねー。大事な二人の時間を邪魔しちゃって」
灰谷が、まったくもって心のこもっていないセリフを吐いた。
三週めの土曜日は、遊馬さんちで三人ランチ。
このメンバーじゃ、どうせ大したもの作れないって思ってるでしょ? 一人暮らしアラサー男子の料理スキルなめんな!
スープはフリーズドライ!
メインは、袋を開けてゆでたパスタにあえるだけ! ここは頑張って、肉とか具材がしっかり入ってる高いヤツだ!
えぇい、ここまで来たらサイドメニューも付けてやる!
買ってきたシーフードサラダをライスペーパーで巻くだけで! 生春巻きじゃ!
デザートもあるぞ! 冷蔵庫で冷やし固めるだけのマンゴープリン!
……なんか物足りないなら、ふりかけご飯でも食ってろ!
と、まあ、レトルト・手作りキットを駆使して、テーブルの上はあっという間に華やかになった訳だ。
たぶん灰谷は全部一から手作りできるけど。
俺も遊馬さんも、普段から料理をしない派であることが今回よく分かった。
……いいじゃん。世の中、便利なものがいっぱいあるんだから。活用しようよ。
あれ、遊馬さんが腕組みしてテーブルの上を見つめて、何か考えてる。
「うん……やっぱり多少は料理ができた方がいいな」
遊馬さーんっ!
「そんなことないですよぉ。俺は満足ですよ? パスタ美味しいです」
「まあな、これはこれで美味しいんだけどな……」
灰谷がそんな遊馬さんを見てニヤついた。
「きのぴーは、しろやんに手料理食べさせたかったんだよね」
「そうなんだ……い、いや違う! 気持ちの問題だ!」
遊馬さんの耳がはやくも薄桃色に色づいてきた。
「え? だから、きのぴーが想いを込めた料理で、美味しいです、って、しろやんを笑顔にしたかったんでしょ?」
「な、なんだ、想いを込めた料理って。そうじゃなくて、手料理なら、作る過程も楽しめるはずっていう意味だ!」
きゅぴーん。薄桃色の何かの正体を感じ取った灰谷の目がキラキラする。
「あ、そうだね! キッチンにきのぴーとしろやん二人並んで調理なんて、いいよね。『しろた、ちょっと押さえててくれ。春巻きを巻きたいんだ』『この辺でいいですか? 遊馬さん』『そう。ありがとうしろた』……あー! いい! いい! いいよぉ! 見せてよきのぴー!!」
灰谷が春巻き食べながらひっくり返って身悶える。遊馬さんは当然真っ赤だ。
「うるさい! 灰谷はふりかけご飯食べてろ!」
そっかー。遊馬さんと、ふふ、一緒に料理かぁ。確かに、いいかも。とても、ドキドキするかも。
「遊馬さん! 今度一緒にご飯作りましょう!」
「やめろ、し、しろたまで毒されるな! 何作る気だ!」
俺は遊馬さんにそっと寄り添って、告白した。
「あの、俺、遊馬さんと肉じゃが作りたいです。味見したりとか、きっと楽しいです! ……どうでしょうか」
「ぅ、ぁ、その、……」
遊馬さんは何かのメーターが振り切れて、お口ぱくぱく状態になっちゃった。顔まで赤いし。手も熱いし。息できてるかな、大丈夫かな。
「なんなの君ら! 最高かよ! もう二人で脚本書いて、映画作ってよ! 全米が赤面して身悶えるわ!」
灰谷は笑いすぎて上気した顔でふりかけを選びながら、そんなことを言っている。
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