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5-ばかしあい(14)
休みが明けて、出勤した。土曜日のことはなんだか夢みたいで、ただ気分だけが高揚してる。言えるのは一つだけ。遊馬さん大好き。俺幸せ。……あ、二つだった。ふふ。
「お、おい宗吾、どうしたんだ白田は。フリーズしてるぞ」
朝一の打ち合わせから帰ってきた宗さんがなんか言ってる。遠い。
「それが、よく分からなくて。頬が赤いし、熱暴走しちゃってるのかな」
「熱暴走? 冷やせ冷やせ」
「水冷でいいかなぁ」
頬にひやりと冷たいものが触れた。確かに気持ちいいけど、俺CPUじゃないんです。
「白田は何だ、指に怪我をしたのか? それを見つめてるのか?」
「みたいですよ」
うふふ。そう、怪我しちゃったんですよ。でも、丁寧に手当てしてもらったので、もう大丈夫なんです。ふふ。そう、とても丁寧に。
「白田くん、何があったの? 黙って笑ってるの怖いから教えてよ!」
「白百合の件で進展があったんだろ? 気になるから早く話せよ!」
高山さんと宗さんがわいわい言ってる。
んー。んふふ。ふふふふふ。
「……高山さん」
急に高山さんの後ろから静かに声が掛かって、高山さんと宗さんがびくりと固まった。
高山さんは振り返れずに硬直してる。宗さんはそんな高山さんの背後を見つめたまま身動ぎもしない。
「納通の件、そろそろ初回ですよね。高山さんなら問題ないと思っています。よろしくお願いします」
「は、……はい!」
高山ブラザーズがそろって返事をした。
ふふ、と笑った気配がして、遊馬さんが部長席へ去っていった。
高山さんも宗さんも、それを目で追いながらしばらく微動だにしなかった。
「昼休み……また昼休み後半に食堂に集合だ。いいな。白田は絶対に来いよ」
「はぁい。うふ」
「灰谷くんには俺から連絡しておくよ」
「頼んだ」
遊馬さんはいつも通りで冷静だなぁ……カッコいっ。俺も浮かれてないでしゃんとしなきゃ。
……あー。でもさ、でもさ、幸せなんだよ。どうしようもなく、さ。
ちょっとくらい浮つかせてよ。ね? いいでしょ?
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