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5-ばかしあい(20)

さて、買い忘れはないかな? とカゴの中を見て、見覚えのないものが入っていることに気づいた。 プリンだ。 表面を炙られて香ばしく焼き目のついたプリンが二つ、ほうれん草の影に隠れている。こんなの、俺知らないよ。 「遊馬さん、プリン入れました?」 「……知らないな」 顔を背けているけれど、明らかに、僕がプリンを入れましたと、その真っ赤になった耳が言っている。 「あれー。おかしいな、どこで入っちゃったんだろ。じゃあちょっと、戻しに行きましょう」 「待て、ちょっと待て」 白々しい芝居をして遊馬さんの様子には気づかないふりでカートの向きを変えようとしたら、遊馬さんがカゴを掴んで止めてきた。 「もう、レジに並んじゃっただろ。いいよ、そのままで」 「いや、でもどうするんですか? 俺はともかく、遊馬さん甘いの食べないでしょ」 「しょうがないから食べる」 「いや、そんな無理して食べなくてもいいんですよ。戻してくればいいだけです」 それでも、カゴを引き留める遊馬さんの手は緩まない。 「またレジに並び直すのも面倒だろ」 「そんなことないですよ。セルフレジだし、回転速いですよ。ちょっと戻りましょう」 とうとう遊馬さんは俺から強引にカートを奪うと、ちょうど空いた精算機へ進んだ。 「ほら、さっさと清算しろ」 いつもは透き通るように白い遊馬さんの耳は、やっぱり赤い。それなのに知らない顔して。素直じゃないんだから。 しかたないな、プリン買いましょう。 でもその代わり。素直じゃなかったバツとして、 家に帰ったら、ぎゅってしますから。 逃げてもだめです。玄関入ったらすぐに、ぎゅってしますから。 黙ってプリンをカゴにいれるなんて。 しかも二個。俺の分まで買うなんて。 一緒に食べたかったんですか? 遊馬さん? 重罪ですよ、もう、あなたはほんとに、もう。 悪い子すぎて、今すぐキスのお仕置きしてあげないといけなくなりますよ。遊馬さん?

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