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5-ばかしあい(21)
家に帰って、遊馬さんをぎゅってしたら、遊馬さんは真っ赤になってもがいた。
「いきなり何するんだ、馬鹿! 放せ!」だって。うふふ。可愛いんだから。
料理の前にプリンを食べることにした。
俺のペースを見ながら、遊馬さんがスプーンを口に運んでいる。
「甘いな」
嫌そうではない。どちらかと言えば嬉しそうだ。
「美味しいですね」
「うん。しろたは好きな味か?」
「そうですね。カラメルがちゃんとほろ苦いところが、懐かしくて好きです」
俺がそう答えると、遊馬さんはちょっと照れくさそうに笑った。
「甘いだけじゃないの、しろたが好きそうだなって思って、どうしても一緒に食べたかったんだ」
成功だな。そう呟いて遊馬さんは、最後に残ったプリンをスプーンですくいとった。
……ぅ、ぅう。
どうしよう、胸が苦しい。きゅーんって。
どうしても俺と一緒にプリン食べたかったんだって。
遊馬さんが素直にそんなこと言うなんて。
今までだったら、そう思ってても口には出してくれなくて、「しろたが好きそうだったから、仕方ないから今回だけ付き合ってやる」くらいツンツンするのに。
一緒に食べたかったって。しかも、どうしてもって。
うぅう。遊馬さんを見れない。
なんで急にデレるんですか?
「しろた?」
遊馬さんが呼んでる。
でもあの、遊馬さんが好きすぎて顔がゆるゆるに弛んじゃって、今はお見せできる状態ではないんです。しばらくお待ちください。
「しろた、なんでそっち見てるんだ?」
遊馬さんが寄ってくる。
だから、しばらくお待ちくださいってば! 覗かないで!
「しろた、顔赤い。変な顔してる」
言わないで! 遊馬さんのせいなんですよ!
「ふふっ。……プリンおかわりさせろ」
俺が照れ隠しにスプーンを口に運んだのを見計らって、遊馬さんは俺の両手から物を取り上げてテーブルに置いた。
「あ、俺のプリン」
「だぁめ」
そう言って遊馬さんはいたずらっ子みたいに、にっと笑う。 レアな笑顔に見とれる暇も与えず、遊馬さんは俺の唇を奪った。
「んぅ」
微かに熱をはらんだ器用な舌が絡みついて、プリンの欠片をさらってく。
頬の裏も、奥歯の横も、全部、遊馬さんがもってった。
「プリンなくなった」
舌を引っ込めて、遊馬さんが呟いた。
「あとは、しろただけ」
俺を抱きしめて、頬擦りからの、キス。
今日の遊馬さんは、ありえないくらい機嫌がいい。
だってこんな優しい、気持ちのこもったキスをくれるなんて。
しかも、遊馬さんからキスしてくれるなんて。
初めてばっかりだ。何かあったんですか?
「遊馬さん」
そんな素敵なキスを中断するのは惜しかったけれど、それでもどうしても聞いてみたい。
遊馬さんの鼻先に小さくキスを落とした。
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