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5-ばかしあい(22)
恥ずかしいけど、遊馬さんの目をまっすぐ見つめて聞いてみた。
「もしかして俺のこと、少しは好きになってくれたんですか?」
俺の独りよがりだったら寂しいけど、でもやっぱり聞きたかった。
「どういうことだ?」
遊馬さんの目は優しくて、瞳の真ん中にちゃんと俺がいる。
「だって遊馬さん、俺と付き合うって言ってくれたの、渋々だったじゃないですか。でも今は遊馬さんからキスしてくれたし、あの頃よりは俺に興味もってくれたのかなって思って」
ふふっ。
遊馬さんは微かに、でも確かに笑って、もう一度俺を抱きしめた。
「しろたは、まだまだだな」
「え?」
遊馬さんのすべすべほっぺがまた頬擦りしてくれた。
「渋々だったことなんて、一度もないんだ」
「へ? でもいつもあんなに」
俺の提案に、不承不承付き合ってくれる遊馬さんの不満顔を何回見たことか。
抱きしめたりなんてしようものなら、耳を赤く染めて俺を叱ったじゃないですか。さっきぎゅってした時も、ちょっと怒ってたし。
「僕が素直になんかなるわけないだろ」
「? 遊馬さん、分かんないです。易しくしてください」
「僕も一目惚れだったんだ。こいつとなら利害関係なしに……セックス、してもいい。最初からそう思ってた」
品がなくてごめんな。遊馬さんが呟く。
「最初?」
「そう。しろたが初めて僕の前に立った時。でも、次に、この子可愛いなって、そう思ったら僕は上がっちゃってろくに喋れなくなって、しろたの名前を繰り返すことしかできなかった」
ああ! 入社一日めの挨拶の時!
いきなりファーストネーム名乗られたと思ったって言って、きょとんとしてた。
「あの時、遊馬さんの笑顔見て、俺は遊馬さんを好きになったんです」
「じゃあ、惚れたのは僕の方がちょっと先だな」
そう言って遊馬さんは照れたように笑った。
なにこれ、なにこれ、なにこれ?
遊馬さんが俺のこと好きだって。
しかも、昨日今日の話じゃなくて、初めて会った時からだって。
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