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5-城崎遊馬のヒソカゴト
お世話になっております。法人事業部 城崎遊馬と申します。
毎度お騒がせしております『灰谷九次のよた話』ですが、灰谷多忙のため、第五回はお休みさせていただきます。
代わりとしまして、今回のみ『城崎遊馬のヒソカゴト』として、私が幕間を埋めさせていただきます。
灰谷ですか? 灰谷は保険システム部に所属しているのですが、本日、大量にある紙媒体の取り込みを失敗しまして……原因はパンチャーさんへの連絡不足なので、完全に保険システム部側のミスです……保険システム部員総出で急遽再取り込みを行っているところです。
もちろん他部にも人員要請があったので、うちからも数名出しました。
もちろんOCRもありますが……仕事の話ばかりではつまらないですね。失礼しました。
要するに、灰谷は今必死でキーボードを叩いているということです。ふふふ。
さて、私は何をしているのかと言いますと。
私用で日中に銀行窓口に行かなければならなくなったので、本日は休暇をいただいています。
こういう細かい手続きは早く終わらせてしまうに限ります。
出かけようとマンションのエレベータから降りたところで……アイツに出くわしました。
「おはようございます。城崎、えーと、遊馬さんですよね」
……ワザとらしい。名前を覚えるのは得意でしょうに。
「おはようございます。松原さん」
「今日は有理くんと待ち合わせ、してないんですか?」
余計なお世話です。
「平日はなかなか時間が取れませんから」
仕事用の笑顔を返しました。
この松原洸太さん、あろうことか、しろたさんに横恋慕してくる邪魔者なのですが、大変ムカつくことに、なかなかの辣腕家らしく、プレイヤーとして歓楽街で一、二を争う売り上げと指名本数を誇っているんだそうです。どれだけたくさんの女性を泣かせてきたんでしょうか。癪にさわります。ちなみに私たちと同年齢です。
「この時間にお出かけってことは、城崎さん、休暇でももらってるんでしょう? せっかくなら、有理くんと都合をつけて会えばいいのに」
「そうそう上手くはいかないものですから」
「城崎さん、部長なんでしょ? 有理くんが言ってましたよ。スケジュールの調整なんてお手の物でしょ?」
いちいち棘を刺してくるのが小憎らしい男です。
「私たちのやり方で時間は作ってますから。ご心配には及びませんよ」
ついでに言うと、アナタをしろたさんに会わせるなんてミス、二度とおかしませんから。
「ああ、そうか、城崎さんにお聞きすればいいのか。今度有理くんを食事に誘おうと思ってるんですけど、有理くんって、何料理が好きなんですか?」
なんですか、そんなに私を怒らせたいんですか。知りません。いえ、知ってますけど。食堂で、よく中華メニューを選んでいることは知ってますけど。
アナタに教える義理はありません。銀河の果てでスペースデブリにでもなってください。
しろたさんはいまだに、オムライスと天津飯の見分けがつかないお茶目さんですけど、そんなチャームポイントもアナタには教えません。
「香水の好みは分かるんだけどなー」
はあ!?
「あはは、城崎さんって意外と表情豊かですね。そうそう、有理くんね、ウッディ系の香りが好きなはずですよ。俺、そういうの当てるの得意なんで」
あああ、この方早く爆発してくれませんかね。本当に。一刻も早く。
そういえば、以前私が香水をつけていた時、しろたさんが良い香りだと言っていたことを思い出しました。あの時確かに、付けていたのはシダーウッドの香りがメインの香水でした。
松原さんに言われて思い出すとは、なんとも悔し……いや、それが松原さんのお仕事なんでしょうから、知っていて当然ですよね。
ああ、腹が立つ。
「いいこと教えてあげたんだから、有理くんとデートさせてよ」
「黙れッ、しろたは僕の天使だ! やらしい目で見るな!!」
「あっははっ! 本音ありがとう。あ、時間だ。じゃ、次回はデート、お願いね」
松原さんは陽気に笑いながら、外へ出て行きました。
ここは駅も近いしその割に静かだし、気に入っていたんですが。引っ越しを……早急に検討しなければなりませんね。いや、なぜ私がアイツのために引っ越さなければならないんでしょう。逆ですよね。なにか策を考えなければなりませんね。
今日の予定が増えてしまったので、ここで失礼します。
ではまた、次の機会にお会いしましょう。
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